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カタールW杯決勝戦、サッカーには本当に神様がいるのかも(後)

(続きです。)
延長戦に入るとアルゼンチンンは4バックから5バックに変更し、これが功を奏してペースを握ります。
フランスは中盤省略の4トップでWBもガンガン上がってきていましたから、5バックの方が合理的というわけです。
ただ、攻撃の方では今大会でも最も堅牢だったフランスの守備をなかなか崩せず、逆にフランスのフィジカル主義のカウンターやセットプレイにときおり苦しめられるという展開。
そこで延長前半12分、アルゼンチンはこれまでよく走ったアルバレスをラウタロ・マルティネスに交代。
ラウタロが闘志満々でチャンスを作り出すも延長前半は2-2のまま終了しましたけど、アルゼンチンにいっそう勢いが出てきました。

延長後半も立ち上がりからやはりアルゼンチンが攻勢で、3分にはメッシが巧みなボレーシュートを放ち、GKロリスがなんとかそれをセーブ。
この日のメッシは守備でも割と走っていたのにまだまだ元気でしたし、メッシがアタッキングサードで前を向いたときのフランスDFの緊張感は半端ないものがありました。

するとそのすぐあと、アルゼンチンらしいパス交換からのゴールが生まれます。
右サイドからのふわりとしたパスをラウタロがメッシに落とし、それをメッシがフェルナンドにダイレクトで繋ぐと、フェルナンドが右に流れていたラウタロにスルーパス!
それをラウタロが強烈なシュートを放つもGKロリスがビッグセーブ!
しかしそこに詰めていた男がいた!ボールがその男の目の前にぽろりとこぼれてくる!そこに人智を超えたなにかがあった!
勝ち越しの3点目を決めたのはメッシ!リオネル・メッシ!D10Sを継ぐ男!

このゴールで盛り上がったアルゼンチンは持ち前のパス回しとボールキープで時間を削り、フランスの息の根を止めにかかります。
試合運びが上手いというか本当にずる賢い。
ただ、フランスには速さと高さという武器があるのでまだまだ試合はわかりません。スタンドで優勝を確信したように騒ぐアルゼンチンサポーターは気が早いというものです。
もっともアルゼンチンの選手たちには微塵の隙もありません。ここからが大事だということはラウンド8のオランダ戦で痛いほど学んでいます。

そうしてアルゼンチンの集中力が高く、運動量も落ちなかったため、フランスはなかなか攻めきれず、シュートも打てないような状況が続くと、徐々にアルゼンチンの優勝が現実味を帯びてきます。
私も「これは決まりかな」と思ったものです。

しかし、運命の神様はそれでは面白くないと思ったのか、とんでもない場面がおとずれてしまったのです。
延長後半11分、フランスの破れかぶれ気味の攻撃、適当に放り込んだクロスのこぼれ球を拾ったエムバペが目の前に群がるアルゼンチン守備陣を無視するかのような強引なシュート!
当然にようにブロックされますが、フランスの選手たちが一斉にハンドをアピール。
VAR判定の映像を視ると、確かにモンティエルの肘にボールが当たっていました。
身体に折りたたんでいたので悪質ではありませんが、ルールに照らせば間違いなくハンド。見逃したくはあってもこれは致し方ありません。
それで獲得したPKをエムバペが鋼のメンタルで決めて3-3の同点。
エムバペはハットトリック。
アルゼンチンの3点目はサッカーの楽しさ詰まったゴールならば、フランスのそれはサッカーの残念な部分が詰まったゴールでした。
運命の神様はアルゼンチンの美しい勝利を望んでいなかったようです。

アディショナルタイムにはフランスのコロムアニが一本のパスで抜け出し、決定的なシュートを放ったのをGKEマルティネスが右足で奇跡的に防ぐという場面もあって、アルゼンチン国民のなかには心臓が止まりかけたひともいるかもしれません。
そのすぐあとにラウタロがフリーで頭で合わせるも枠の外でしたし、最終盤まで目が離せない試合でした。

そして決着はPK戦へ。
120分の内容的にはアルゼンチンのゲームでしたし、”メッシ最後のW杯”でしたから、アルゼンチンの勝利を願った地球人が多かったとは思いますが、PK戦ばかりはどうなるかわかりません。
勝敗を分けるのはテクニックなのか、分析なのか、勝利への執念なのか…。
ただ、わかっていることがあります。
それは”1人目が大切”ということです。
特に先攻チームの1人目が成功させば場合は勝率が跳ね上がるといわれています。
それを知ってか知らずか、フランスの1人目のエムバペは涼しい顔でこの日3本目となるPKを見事に沈めて見せました。
メンタルもフィジカルも最高の選手ですし、この試合ではキャプテンシーのようなものまでも感じさせました。

これでフランスにいい流れができたのは間違いなかったのですが、それをすぐさま断ち切ったのはアルゼンチンの1人目、リオネル・メッシでした。
GKロリスの逆をつく緩いシュート。
数十億人の観戦者の意表を突く緩いタッチ。
この世紀の一戦の最も大事であろう場面で、このPKを選択する度胸はクレイジーすぎます。
はっきりいって人間じゃない。
このPKがネットに転がりこんだとき、世界中が感嘆と興奮に包まれたに違いありません。

こうしてメッシが勝利へ階をかけたあと、フランスの2人目をEマルティネスがファインセーブ!
アルゼンチンは2人目のディバラがゴールど真ん中にぶち込んで雄叫び!
これで完全にアルゼンチンの流れになると、フランスの3人目のシュートは枠外へ。
相手が2本連続で外すとお付き合いすることも多いものの、アルゼンチン3人目のパレデスは無慈悲に素晴らしいコースに蹴り込みます。
これで大勢は決したといっていいでしょう。
フランス4人目のコロムアニはスタンドのアルゼンチン応援団に負けることなく豪快なシュートを真ん中に決めますが、アルゼンチン4人目のモンティエルが落ち着いてロリスの逆をついてゲームセット!
アルゼンチンは36年ぶりのW杯制覇です!
メッシとその信奉者たちはついに長年の悲願を果たしたのです!

それにしても本当に凄い試合でした。
後半30分まではスカローニ監督の策がはまってアルゼンチンのワンサイドでつまらないゲームでしたけど、そこからデシャン監督の巧みな采配があってフランスが2-2の同点に追いつくと、火が点いたように面白いゲームになりました。
しかも両チームのエース、メッシとエムバペが持ち味を如何なく発揮しまくるのですから、漫画でもなかなか描けない展開です。
延長後半のPKは余計だったものの、PK戦でもメッシ、エムバペの凄味を堪能できたので、まあよしとしましょう。

私もこの試合は”メッシの試合”だったというのが率直な感想ですが、最も評価したいのはキリアン・エムバペです。
フランスが苦しい時間帯でもひとり奮闘し、流れが来たときはここぞの一瞬で決めてみせる、プレイでチームを引っ張る真のエースでしたし、世界最高の選手でした。
そんなエムバペが”最強の敵”として立ち塞がっていたからこそ、”主人公”であるメッシ、史上最高の選手が際立ったのです。
敵が魅力的で強くなければ物語は面白くないんです。
ご都合主義を排除した展開のなか、主人公が強敵の上を行くからこそ読者は目を釘付けにされるのです。
そしてまた名作の主人公というのは運まで引き寄せるものです。
この試合はすべてがメッシのいいように転がり、エムバペのゴールもメッシの物語のためのスパイスでしかありませんでした。

いやはや世界のひとびとはとんでもない試合を観てしまいました。
これはもはやサッカーの枠を超えた伝説です。
あらゆる宗教の信者も無神論者も、神の存在を感じたはずです。
本当に説明のできない試合でした。結末のわからない試合でした。
”God only knows”も”Solo Dios sabe”も直訳すれば”神のみぞ知る”ですが、まさにそういう試合でした。
人間にはわからない試合です。

しかしそんななかメッシだけはこの勝利を知っていたような気がします。
彼はこの試合の主人公であり、作者のようでもありました。
我々は彼の手の平、いや足の裏で遊ばれていたのかもしれません。
しかしそれは最高に楽しい時間でした。
彼の伝説を同時代で、リアルタイムで感じることができたのです。
世界中が幸せで包まれたといっていいでしょう。
これもまた人智を超えた御業です。
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カタールW杯決勝戦、サッカーには本当に神様がいるのかも(前)

W杯の決勝戦が予想通りの展開になることは稀ですが、このカタール大会のそれは本当に想像を絶するものでした。
フィクションでもこんなものは描けません。
人間の想像力の外にある試合でした。

下馬評では「フランス有利」という見方が大勢を占めるなか、立ち上がりからゲームを支配したのはアルゼンチン。
今大会は怪我もあってジョーカー的に使われていたディ・マリアをいつもの右WGではなく左WGでスタメン起用するスカローニ監督の策がピシャリとハマり、先制のPKもディ・マリアの仕掛けからでしたし、前半36分のカウンターからの2点目を決めたのもディ・マリアでした。

そしてその大事なPKを確実に仕留めたのはメッシ、2点目のカウンターのときに敵を2、3人引きつけてダイレクトパスを出したのもメッシ。
盟友ディ・マリアを生かすパスも何本も通し、この2人によってフランスの右サイドは完全に蹂躙され、まだまだ点が獲れそうな雰囲気でした。

また前半のアルゼンチンは守備でも一歩の出足が鋭く、フランスのキーマンであるグリーズマンを抑えていたこともあって、完璧なまでの堅牢さ。
局面ではどこでもアルゼンチンが競り勝ち、勝利への執念でフランスを凌駕していたといっていいでしょう。
フランスは「幾人かの選手が風邪を引いていた」との報道がの本当だったのか、動きの重い選手が散見され、ディフェンディングチャンピオンの面影はどこにもなく、W杯決勝とは思えぬワンサイドゲームでした。

フランスのデシャン監督は走らぬ馬に鞭を打つように、前半終了間際という珍しいタイミングでグリーズマンとジルーを下げ、若いFWのテュラムとコロ・ムアニを投入してチーム全体に活を入れようとしましたが、そこからも、後半に入ってもからもフランスのギアは上がらず、後半30分過ぎまでまるで病人のようした。
守備陣が懸命に踏ん張って2失点に抑えているので倒れずにすんでいただけです(今大会のフランスの守備の粘りは凄かった)。
この試合は”メッシ最後のW杯”ということもあって、アルゼンチンを贔屓していたサッカーファンが世界には多かったとは思いますが、あまりにも一方的な展開ではさすがに楽しめなかったのではないでしょうか。
私もテレビ観戦をしながら「フランスもうちょっと頑張れよ!」という気分でした。

もっとも、スタンドの白と水色のサポーターたちはお祭り騒ぎでしたし、後半16分に大歓声を浴びながらベンチに下がったディ・マリアも優勝を確信したような表情をしていましたし、アルゼンチン人にとっては試合の面白さなどどうでもよかったに違いありません。
当事者にとって、W杯の決勝は勝つことがすべてです。
二代目神の子が祖国に36年ぶりの栄誉をもたらす瞬間が十数分後に訪れるはずなのですから、歓喜の瞬間を想像して早くも絶頂に包まれるというのもわかります。

しかしそんな浮ついた空気が隙を産んだのか、後半34分、エムバペが前線のスペースに送ったボールにコロ・ムアニが快足を飛ばして追いつこうとしたところをオタメンティが引きずり倒してまってPKの判定。
これをエムパベがきっちりネットに突き刺して1点差。
さらに36分にはメッシからボールを奪ったフランスのカウンター、中盤からのふわりとしたパスをエムバペがヘッドでテュラムに落とし、ティラムが折り返したボールをエムバペが豪快ボレーの同点弾!
”2-0は危険なスコア”を具象化させたような2分間でした。
アルゼンチンは1失点目で完全に混乱していましたね。

またこの同点劇には後半26分のフランスの2枚替えが伏線としてあって、PK奪取の起点となったパスを出したのがカマヴィンガ、2点目のメッシからボールを奪ったのがコマンはそのとき投入された選手でした。
2人はチームに活力とスピードを与えていましたし(特にカマヴィンガがよかった)、デシャン監督の采配の冴えは鳥肌ものでした。

そこからもアルゼンチンは大混乱というか、スタンドのサポーターと一緒に意気消沈してしまい、フランスの時間が続き、まさかの大逆転が起こりかねない雰囲気。
DF陣とGKEマルティネスの奮闘があってなんとか凌いでいましたけど、ここでやられていたらアルゼンチンという国自体が崩壊していたかもしれません。
7分のアディショナルタイムの途中からはアルゼンチンも落ち着きを取り戻し始め、52分にはメッシの惜しいミドルなどがあって、流れを取り返しつつ前後半を終えることができました。

これで決着は延長戦へ。
この試合は日本時間では12月19日月曜日の午前0時スタートでしたけど、この時点で午前2時。
試合終了は午前2時半か、PKに進めばそれ以上。
しかし、こんなとんでもない展開では眠れるはずもありませんし、日本人の多くが大変な週初めになりそうです。
(延長戦に続きます。)
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モロッコとタコと西サハラ

このカタールW杯では、グループステージで旋風を巻き起こしたのは我らが日本でしたが、ノックアウトステージでのそれは間違いなくモロッコでした。
ラウンド16ではPK戦の末スペインを下し、準々決勝では超高打点ヘッド1発でポルトガルを沈めたことで「イベリア半島が再征服された」と歴史になぞらえて話題になったものです。
そして準決勝の相手も歴史的な因縁のある旧宗主国フランスとなり、モロッコ人たちは血が沸き立つような興奮を覚えたことでしょう。アフリカ勢初のベスト4も誇らしい快挙でした。

そのベスト4ではフランスの老獪さとここ一番の集中力に0-2でしてやられたものの、試合内容的には互角でしたから、本当に今回のモロッコチームは素晴らしかったです。
個々の選手の実力は確かなのに全体的には雑というのがこれまでのモロッコのイメージでしたけど、今大会は規律と勝利への執念が際立っていましたし、守るときと攻めるときのメリハリも効いていました。
フランスと対戦するまでの5試合で失点がわずか”1”というのは驚きの堅守でしたし、そこからのカウンターの鋭さはフリッサの刺突のようで、今大会の強烈なインパクトを残したといっていいでしょう。
ただ、日本と同じくCFにこれといった選手がおらず、自分がボールを握ったときの決定力不足には最後まで泣かされましたね。

そんなモロッコですが、国として見ると、我々日本人にとってはあまり馴染みがないんじゃないでしょうか。
北アフリカのイスラム国家ですから、歴史的な接点はないに等しく、現在の貿易相手としてもその額は多いとはいえません。
2018年のデータだと日本からの輸出が約25億9千万ドル、輸入が15億ドルとのことです。
ただ、外交でいうと、モロッコも立憲君主制であり、日本の皇室とはかなりいい関係らしく、今上陛下が皇太子だった1991年にモロッコを訪問なされた際には前国王から大変な歓待を受け、その後も陛下は現国王のムハンマド6世や王弟と個人的なお付き合いもあるようです。
次のお会いになられたときはサッカーの話で大いに盛り上がることができるでしょう。

こうして私は日本とモロッコの関係は薄いと書いていますが、何人かのひとは読みながら「モロッコと日本の関係でいえばタコだろう!」とツッコミを入れているかもしれません。
私もタコが好きですから”モロッコ産”をけっこう買いますし、忘れているわけではないんです。
しかし、”モロッコ産タコ”は政治的にとてもデリケートなので、”モロッコ産タコ”と書くことすら引っかかるものがあるんです。

実は日本で売られているモロッコ産タコは、”西サハラ”という地域で揚がったものがほとんどなんです。
西サハラはモロッコと、これまたタコで有名なモーリシャスの間に位置する地域なのですが、過去にはモロッコとモーリシャスが領有権で争い、モロッコがそれに勝利したあとは独立運動(独立戦争)が起きているというとんでもなく複雑な”地域”というか”国”というか、本当にデリケートです。
もちろん度々武力衝突も発生していて、現在は国連のPKOも展開しています。

ただ、現在の情勢は割と落ち着いていて、サハラ人たちは不満を抱えつつも、モロッコの実効支配に慣らされつつあるようです。
ですから日本にもたらされる西サハラ産の水産資源も”モロッコ産”になっているわけです。
モロッコ人がサハラ人をリスペクトしてどうにか平和的な関係を構築して欲しいというのが私の願いですが、遠く離れた日本からあれやこれやというのも本当に難しい話です。

タコ焼きを食べながらサッカー観戦をする日本人も、西サハラ問題は頭の片隅に入れておきたいですよね。
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メッシ、最後の決勝戦へ

このカタールW杯は初の中東開催、しかも行われるのが11月~12月の冬というのが異例だと騒がれてきましたが、見所としては”世界的な世代交代”というのがキーワードでした。
リオネル・メッシ、クリスチアーノ・ロナウド、ルカ・モドリッチ、ネイマールといった歴史に残る選手たちが「最後のW杯」だと仄めかしたり明言したりしていましたし、ロベルト・レヴァンドフスキ、マヌエル・ノイアー、セルヒオ・ブスケツらはなにもいっていないものの年齢的には次のW杯は難しく、黄金世代だったベルギーやウルグアイも黄昏を迎えています。
世界中のサッカーファンは新星の登場に期待しつつも、名選手たちが最後にひと花咲かせてやろうと奮闘する姿を楽しみにしていたわけです。

そして大会も準決勝まで進み、スターたちも次々と姿を消して行きました。
ノイアーとベルギーはグループステージで不覚を取って批判され、得失点の見積もりが甘かったウルグアイはスアレスがベンチで顔を覆い、CR7とネイマールはベスト8で格下相手に悔し涙を流すなど、目標から遠いところで散った選手が多かったといっていいでしょう。
ポーランドを36年ぶりのベスト16に導き、自らもW杯初得点を挙げたレヴァンドフスキなどは敗れても幸せだったかもしれません。

そんななか行われた準決勝第1試合アルゼンチン×クロアチアの見所は、メッシ×モドリッチの”小さな巨人”対決でした。
両者ともにチームの絶対的な大黒柱であるものの、そのプレイスタイルは対照的で、走らないメッシと走り回るモドリッチというのが本当に面白いところです。
ちなみにWINNER(スポーツくじ)の予想ではアルゼンチンがやや有利ながら、最もオッズが低いのは”1-1の引き分け”でした。
私もここまでの両チームを振り返ると、塩試合での引き分けになるような気がしていましたし、WINNERはけっこういいところをついていると思いましたが、引き分けということはPK戦なので、それに強いクロアチアが勝ち抜ける率が高いということにもなります。
アルゼンチンはその”クロアチアのPK”の圧に負けずに戦う必要がありそうです。

…などと考えていたものの、試合はなんと前半でアルゼンチンが2点のリード。
これはクロアチアにとってはまさかの展開だったと思います。
特に34分のアルゼンチン先制の場面は、そのすぐ前にクロアチアのペリシッチのシュートが敵に当たってゴールマウスを超えたかに見えたものの、審判はGKを指示。
それでクロアチアが少しイライラしていたところに縦パス一本で抜け出したアルバレスの突進をGKリバコビッチが体で止める形になってのPKでしたから、本当に悪い流れでした。
PK判定も見るひとによっては不満かもしれません。
ただ、メッシのPKは勇敢で豪快なものでした。

さらには39分にもアルバレスがハーフウェイラインから猛烈なドリブルで駆け上がり、PA内ではクロアチアDFが何度かボールに触れるも、その跳ね返りがすべてアルバレスに収まるというクロアチアにとってのハードラック、アルゼンチンにとっては神がかったスーパーゴールが生まれます。
前半はクロアチアの方がポゼッション率が高かったのに、一瞬の隙をつくアルゼンチンの抜け目のなさが光りました。
ただ、”2-0は危険なスコア”ですから、後半クロアチアが先に1点を獲ったら試合はまだまだわかりません。

後半のクロアチアは最前線にペトコビッチ(193cm)を入れてアルゼンチンが苦手とするハイボール戦術に舵を切ります。
アルゼンチンは前のオランダ戦でこれに苦しめられ、2点リードを追いつかれていますし、これは有効そう。
しかし、クロアチアにはオランダほどの高さと強さがなく、なかなか決定機を作れません。
逆に攻めに出たときの陣形がバラバラで、後ろに広大なスペースを残してしまい、そこを度々アルゼンチンにカウンターで狙われる始末。
クロアチアは日本・ブラジルとの延長PK戦を2試合連続で凌いできた影響からか疲弊は明らかで、戻りも悪かったです。

そんな後半、ピッチ上で最も強い輝きを放っていたのはリオネル・メッシでした。
ピッチをのそのそと歩きながらクロアチアの隙を観察するメッシは草原の捕食者であり、ここぞのときに牙を剥く迫力は百獣の王でした。
その餌食となったのはクロアチアの新星グヴァルディオルです。
日本とブラジルを苦しめたこの20歳のCBは、今大会でもトップクラスの評価を受けている守備者であるにも関わらず、メッシからは子供扱いでした。
後半13分にそのドリブルについて行けずにシュートを許すと、24分にも弄ばれるかのようにチンチンにされ、メッシがそこから完璧なパスをアルバレスに送り、クロアチアにとって絶望的な3失点目。
ここのメッシのドリブルは本当に凄まじく、大人と子供というより、神と人間の差を見るようでした。

また、メッシは「守備は10人の労働者に任せている」といわれますが、チームが苦しいときは巧みなボール保持能力で時間も削ってくれるので味方にとってこれほど頼もしい選手はいないでしょうし、相手からしたら本当に鬱陶しい存在です。
攻撃でも守備でも相手の嫌がることしかしないのがメッシです。
そういえば古代の人間は敵が信じる神を悪魔と呼んでいました。
後半36分にベンチに退いたモドリッチがそれに呪われたような顔をしていたのが印象的です。
(3位決定戦に向けての温存でしょう。クロアチアのダリッチ監督はリアリストですね。)

そうして試合はそのまま3-0で決着。
アルゼンチンは36年ぶりのジュール・リメ杯に王手をかけました。
相手はフランスかそれともモロッコか。
いずれにせよ、メッシと10人の労働者、いやメッシと25人の使徒たちは奇跡に向かって人智を超えたプレイをするに違いありません。
VARなどの最新機器が注目されるカタールW杯ですが、最後は非科学的な戦いになるような気がします。
36年前の決勝がそうであったように。
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カタールW杯の日本代表各選手を振り返ってみたいと思います。(後)

(続きです。)
17 田中碧
東京五輪後の成長が期待された田中ですが、所属のデュッセルドルフ(ドイツ2部)で思ったような活躍もできず、このW杯前の10月には怪我をして、ぶっつけ本番でのカタール入りとなってしまいました。
そしてテストマッチ・カナダ戦の出来も悪く、グループステージでの起用は難しいかと思われたなか、守田英正の回復の遅れから初戦のドイツ戦ではスタメンに選ばれるも、試合の強度について行けないまま後半すぐの交代。
守田が復帰したコスタリカ戦はベンチに座り、これで田中のW杯はもう終わったような雰囲気でしたけど、遠藤航が負傷したことでスペイン戦ではまた先発起用。
これには多くのサッカーファンが不安視したのはいうまでもありませんが、試合中に予想外の成長曲線を描くと、三笘薫の1mmクロスに合わせる殊勲の同点ゴールを奪うなど、特に後半は攻守ともに安定していました。
田中と遠藤が揃ったラウンド16のクロアチア戦では延長後半からの投入で、目立ったのはPKを外した三笘を慰めるシーンくらいでしたけど、田中にとっては成長のきっかけになる大会だったと思います。
というか成長してもらわないと困ります!

16 冨安健洋
「コンディションが万全ならばワールドクラスのDF」だと誰もが口を揃える冨安ですが、足の怪我を抱えたままの今大会は、ドイツ戦は後半のみ、コスタリカ戦はベンチ、スペイン戦は後半途中、クロアチア戦はフル出場という内容でした。
途中投入されたときの日本の守備の堅牢さ、守攻の切り替えの迫力を見ると、冨安の存在がいかに大きいかよくわかりますし、彼を世界中に自慢したいという日本のファンも多かったでしょうから、出場時間が限られていたのは本当に残念でした。
とにかく怪我をしにくい身体作りをうよろしくお願いします。
11月に24歳になったばかりの冨安には今後10年は代表を支えてもらわねばなりませんし、クラブの試合でも”日本人の価値”を世界にアピールしてもらわねばなりません。
冨安健洋は日本サッカーの至宝なのですからね。

26 伊藤洋輝
最終予選後のテストマッチから召集され、W杯メンバーに選ばれた期待の23歳でしたが、経験のなさからか、初起用されたコスタリカ戦(後半から)では落ち着きがなく、判断のおかしさもあって、その後はベンチを温めることとなりました。
いまの日本はSBの人材ですし、左利きの左SB(左CB)は本当に貴重なので、伊藤には今大会の失意をバネに選手としても人間としても大きく成長して欲しいと思っています。
若さ故の過ちは誰にでもあるものですし、そこからどうやって自分を正して行くかが大切です。
色んなことに誠心誠意向き合ってください。

11 久保建英
カタールW杯でのブレイクが期待された久保ですが、先発したドイツ戦もスペイン戦も守備的な起用だったため、持ち味を発揮することができず、しかもクロアチア戦は発熱で欠場となってしまい、「不完全燃焼感があります」というまま大会を去ることになってしまいました。
スペイン戦がけっこういい出来でしたから、クロアチア戦に久保がいたらと誰もが思ったでしょうし、代表にはなくてはならない戦力だっただけに、我々も不完全燃焼です。
「いい加減代表でなにかを成し遂げたい」と語る久保はアジアカップはもちろん、フランス五輪にも意欲を見せていましたし、そこでフラストレーションをぶつける大活躍を祈っています。
代表でのいまの久保は”便利屋”みたいな扱いになっていますけど、久保の使われ方がより攻撃的になったとき、代表は一段上のステージに進むと思いますし、久保建英は日本サッカーの至宝であると同時に指標でもあるのです。

20 町野修斗
中山雄太の残念な代表辞退があって、その代わりに選出された町野ですが、結局1分もピッチに立つことなくカタールW杯を終えることとなりました。
今季のJ1(所属は湘南)で13ゴールを叩き出したこの23歳はフィジカルに優れたFWだけに、もう1年早くブレイクし、テストマッチで代表に馴染ませることができていたなら、と残念でなりません。
今後は代表に呼ばれることも多くなるでしょうし、そこでどれだけやれるか我々に見せて欲しいものです。
この選手は絶対に伸びます。

最後に森保一監督です。
私はこれまでの森保監督には色々と疑問を感じていましたし、度々批判的なことを書いていましたが、大会前には腹をくくり、森保監督を信じてついて行こうと決めていました。
ですから、「GSを突破する」という予想を明記しましたし、ドイツに勝ったときも浮かれず、コスタリカ戦で負けたときも森保采配を否定しませんでした。
そうやって全身全霊で応援することができたため、全4試合を心行くまで楽しめましたし、森保監督には感謝しかありません。
W杯優勝経験国であるドイツとスペインを破り、前回準優勝のクロアチアとPK戦までもつれこんだのですからまさに快挙であり、森保一は日本サッカー史上ナンバー1の監督になりました。

さらに森保監督が痛快だったのは、大会前のテストマッチ・カナダ戦でいきなり試した3バックを大会中の基本戦術にして相手を戸惑わせ、5人交代を巧みに使った采配で神風アタックを完成させ、「グループステージで最も巧みな采配」「東洋の魔術師」などと世界から賞賛を浴びたことです。
大会前はまったくの無名であり、「日本のどこにでもいるサラリーマンのよう」とまで書いた海外誌があったというのに、それらすべてを手の平返しさせたのです。
海外の専門家は”能ある鷹は爪を隠す”という言葉を学ぶできですね。
私から見ても森保監督はGSナンバー1、いやいまのところ大会ナンバー1の知将でした。
FIFAランク24位のチームをGS首位通過させるなど尋常な手腕ではないのです。

その采配について特記すべきは、守備偏重のタスクを課した久保や前田に不平をいわせない人間力と、各方面からの「先発させろ!」というの声を無視して”ジョーカー三笘”を貫いた頑固さでしょう。
これらは代表監督に相応しい資質だと思います。
思い返せば森保ジャパンは、その森保監督の頑固さに国民やサッカーファンが首を捻り続けるのに、選手たちは団結してついて行くという面白い集団でした。
選手選考や起用も国内で度々大批判されたものの、本大会が終わってみれば、すべてはそこに照準を定めたテストだったことがわります。
そのテストを見た我々は頭を抱え、相手国は森保ジャパンを舐めてかかることになったわけですが、”敵を欺くにはまず味方から”という言葉を全員が忘れていました。
我々は無能なふりをした森保監督にまんまと騙されてきたのです。

そんな森保監督はどうやら代表監督を続けることに前向きな態度を示しているようです。
雇う側のサッカー協会次第ではありますが、日本社会の常識と世界のサッカー界の常識に照らしても、留任要請ということになるでしょう。
しかし、私は個人的には森保監督には勇退していただくのがいいのではないかと考えています。
いまの代表に足りないのは”攻めの形の構築”や”ゲームの支配権の握り方”だというのが一般的な意見ですが、森保監督はこの4年間でそれを伸ばすことができませんでした。
代表チームがより成長するためには、そこを伸ばしてくれる別の監督の方がいいのではないでしょうか。
もちろん、森保監督に代表チームと一緒に成長してもらう、という方向もあるでしょうけど、それよりも森保監督には一度、どこかのクラブや他国の代表で働いてもらって、そこで戦術の引き出しを増やしてもらうことが全体の利益になると思うのです。
そしてまた数年後に第2次森保ジャパン結成となれば大きく盛り上がることができます。

森保監督も日本サッカーの宝なのですから大事にせねばなりません。
代表監督の去り際はたいていが酷いものです。
美しく一区切りつけられる機会は本当に貴重です。
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かつしき

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