カタールW杯決勝戦、サッカーには本当に神様がいるのかも(後)
(続きです。)
延長戦に入るとアルゼンチンンは4バックから5バックに変更し、これが功を奏してペースを握ります。
フランスは中盤省略の4トップでWBもガンガン上がってきていましたから、5バックの方が合理的というわけです。
ただ、攻撃の方では今大会でも最も堅牢だったフランスの守備をなかなか崩せず、逆にフランスのフィジカル主義のカウンターやセットプレイにときおり苦しめられるという展開。
そこで延長前半12分、アルゼンチンはこれまでよく走ったアルバレスをラウタロ・マルティネスに交代。
ラウタロが闘志満々でチャンスを作り出すも延長前半は2-2のまま終了しましたけど、アルゼンチンにいっそう勢いが出てきました。
延長後半も立ち上がりからやはりアルゼンチンが攻勢で、3分にはメッシが巧みなボレーシュートを放ち、GKロリスがなんとかそれをセーブ。
この日のメッシは守備でも割と走っていたのにまだまだ元気でしたし、メッシがアタッキングサードで前を向いたときのフランスDFの緊張感は半端ないものがありました。
するとそのすぐあと、アルゼンチンらしいパス交換からのゴールが生まれます。
右サイドからのふわりとしたパスをラウタロがメッシに落とし、それをメッシがフェルナンドにダイレクトで繋ぐと、フェルナンドが右に流れていたラウタロにスルーパス!
それをラウタロが強烈なシュートを放つもGKロリスがビッグセーブ!
しかしそこに詰めていた男がいた!ボールがその男の目の前にぽろりとこぼれてくる!そこに人智を超えたなにかがあった!
勝ち越しの3点目を決めたのはメッシ!リオネル・メッシ!D10Sを継ぐ男!
このゴールで盛り上がったアルゼンチンは持ち前のパス回しとボールキープで時間を削り、フランスの息の根を止めにかかります。
試合運びが上手いというか本当にずる賢い。
ただ、フランスには速さと高さという武器があるのでまだまだ試合はわかりません。スタンドで優勝を確信したように騒ぐアルゼンチンサポーターは気が早いというものです。
もっともアルゼンチンの選手たちには微塵の隙もありません。ここからが大事だということはラウンド8のオランダ戦で痛いほど学んでいます。
そうしてアルゼンチンの集中力が高く、運動量も落ちなかったため、フランスはなかなか攻めきれず、シュートも打てないような状況が続くと、徐々にアルゼンチンの優勝が現実味を帯びてきます。
私も「これは決まりかな」と思ったものです。
しかし、運命の神様はそれでは面白くないと思ったのか、とんでもない場面がおとずれてしまったのです。
延長後半11分、フランスの破れかぶれ気味の攻撃、適当に放り込んだクロスのこぼれ球を拾ったエムバペが目の前に群がるアルゼンチン守備陣を無視するかのような強引なシュート!
当然にようにブロックされますが、フランスの選手たちが一斉にハンドをアピール。
VAR判定の映像を視ると、確かにモンティエルの肘にボールが当たっていました。
身体に折りたたんでいたので悪質ではありませんが、ルールに照らせば間違いなくハンド。見逃したくはあってもこれは致し方ありません。
それで獲得したPKをエムバペが鋼のメンタルで決めて3-3の同点。
エムバペはハットトリック。
アルゼンチンの3点目はサッカーの楽しさ詰まったゴールならば、フランスのそれはサッカーの残念な部分が詰まったゴールでした。
運命の神様はアルゼンチンの美しい勝利を望んでいなかったようです。
アディショナルタイムにはフランスのコロムアニが一本のパスで抜け出し、決定的なシュートを放ったのをGKEマルティネスが右足で奇跡的に防ぐという場面もあって、アルゼンチン国民のなかには心臓が止まりかけたひともいるかもしれません。
そのすぐあとにラウタロがフリーで頭で合わせるも枠の外でしたし、最終盤まで目が離せない試合でした。
そして決着はPK戦へ。
120分の内容的にはアルゼンチンのゲームでしたし、”メッシ最後のW杯”でしたから、アルゼンチンの勝利を願った地球人が多かったとは思いますが、PK戦ばかりはどうなるかわかりません。
勝敗を分けるのはテクニックなのか、分析なのか、勝利への執念なのか…。
ただ、わかっていることがあります。
それは”1人目が大切”ということです。
特に先攻チームの1人目が成功させば場合は勝率が跳ね上がるといわれています。
それを知ってか知らずか、フランスの1人目のエムバペは涼しい顔でこの日3本目となるPKを見事に沈めて見せました。
メンタルもフィジカルも最高の選手ですし、この試合ではキャプテンシーのようなものまでも感じさせました。
これでフランスにいい流れができたのは間違いなかったのですが、それをすぐさま断ち切ったのはアルゼンチンの1人目、リオネル・メッシでした。
GKロリスの逆をつく緩いシュート。
数十億人の観戦者の意表を突く緩いタッチ。
この世紀の一戦の最も大事であろう場面で、このPKを選択する度胸はクレイジーすぎます。
はっきりいって人間じゃない。
このPKがネットに転がりこんだとき、世界中が感嘆と興奮に包まれたに違いありません。
こうしてメッシが勝利へ階をかけたあと、フランスの2人目をEマルティネスがファインセーブ!
アルゼンチンは2人目のディバラがゴールど真ん中にぶち込んで雄叫び!
これで完全にアルゼンチンの流れになると、フランスの3人目のシュートは枠外へ。
相手が2本連続で外すとお付き合いすることも多いものの、アルゼンチン3人目のパレデスは無慈悲に素晴らしいコースに蹴り込みます。
これで大勢は決したといっていいでしょう。
フランス4人目のコロムアニはスタンドのアルゼンチン応援団に負けることなく豪快なシュートを真ん中に決めますが、アルゼンチン4人目のモンティエルが落ち着いてロリスの逆をついてゲームセット!
アルゼンチンは36年ぶりのW杯制覇です!
メッシとその信奉者たちはついに長年の悲願を果たしたのです!
それにしても本当に凄い試合でした。
後半30分まではスカローニ監督の策がはまってアルゼンチンのワンサイドでつまらないゲームでしたけど、そこからデシャン監督の巧みな采配があってフランスが2-2の同点に追いつくと、火が点いたように面白いゲームになりました。
しかも両チームのエース、メッシとエムバペが持ち味を如何なく発揮しまくるのですから、漫画でもなかなか描けない展開です。
延長後半のPKは余計だったものの、PK戦でもメッシ、エムバペの凄味を堪能できたので、まあよしとしましょう。
私もこの試合は”メッシの試合”だったというのが率直な感想ですが、最も評価したいのはキリアン・エムバペです。
フランスが苦しい時間帯でもひとり奮闘し、流れが来たときはここぞの一瞬で決めてみせる、プレイでチームを引っ張る真のエースでしたし、世界最高の選手でした。
そんなエムバペが”最強の敵”として立ち塞がっていたからこそ、”主人公”であるメッシ、史上最高の選手が際立ったのです。
敵が魅力的で強くなければ物語は面白くないんです。
ご都合主義を排除した展開のなか、主人公が強敵の上を行くからこそ読者は目を釘付けにされるのです。
そしてまた名作の主人公というのは運まで引き寄せるものです。
この試合はすべてがメッシのいいように転がり、エムバペのゴールもメッシの物語のためのスパイスでしかありませんでした。
いやはや世界のひとびとはとんでもない試合を観てしまいました。
これはもはやサッカーの枠を超えた伝説です。
あらゆる宗教の信者も無神論者も、神の存在を感じたはずです。
本当に説明のできない試合でした。結末のわからない試合でした。
”God only knows”も”Solo Dios sabe”も直訳すれば”神のみぞ知る”ですが、まさにそういう試合でした。
人間にはわからない試合です。
しかしそんななかメッシだけはこの勝利を知っていたような気がします。
彼はこの試合の主人公であり、作者のようでもありました。
我々は彼の手の平、いや足の裏で遊ばれていたのかもしれません。
しかしそれは最高に楽しい時間でした。
彼の伝説を同時代で、リアルタイムで感じることができたのです。
世界中が幸せで包まれたといっていいでしょう。
これもまた人智を超えた御業です。

延長戦に入るとアルゼンチンンは4バックから5バックに変更し、これが功を奏してペースを握ります。
フランスは中盤省略の4トップでWBもガンガン上がってきていましたから、5バックの方が合理的というわけです。
ただ、攻撃の方では今大会でも最も堅牢だったフランスの守備をなかなか崩せず、逆にフランスのフィジカル主義のカウンターやセットプレイにときおり苦しめられるという展開。
そこで延長前半12分、アルゼンチンはこれまでよく走ったアルバレスをラウタロ・マルティネスに交代。
ラウタロが闘志満々でチャンスを作り出すも延長前半は2-2のまま終了しましたけど、アルゼンチンにいっそう勢いが出てきました。
延長後半も立ち上がりからやはりアルゼンチンが攻勢で、3分にはメッシが巧みなボレーシュートを放ち、GKロリスがなんとかそれをセーブ。
この日のメッシは守備でも割と走っていたのにまだまだ元気でしたし、メッシがアタッキングサードで前を向いたときのフランスDFの緊張感は半端ないものがありました。
するとそのすぐあと、アルゼンチンらしいパス交換からのゴールが生まれます。
右サイドからのふわりとしたパスをラウタロがメッシに落とし、それをメッシがフェルナンドにダイレクトで繋ぐと、フェルナンドが右に流れていたラウタロにスルーパス!
それをラウタロが強烈なシュートを放つもGKロリスがビッグセーブ!
しかしそこに詰めていた男がいた!ボールがその男の目の前にぽろりとこぼれてくる!そこに人智を超えたなにかがあった!
勝ち越しの3点目を決めたのはメッシ!リオネル・メッシ!D10Sを継ぐ男!
このゴールで盛り上がったアルゼンチンは持ち前のパス回しとボールキープで時間を削り、フランスの息の根を止めにかかります。
試合運びが上手いというか本当にずる賢い。
ただ、フランスには速さと高さという武器があるのでまだまだ試合はわかりません。スタンドで優勝を確信したように騒ぐアルゼンチンサポーターは気が早いというものです。
もっともアルゼンチンの選手たちには微塵の隙もありません。ここからが大事だということはラウンド8のオランダ戦で痛いほど学んでいます。
そうしてアルゼンチンの集中力が高く、運動量も落ちなかったため、フランスはなかなか攻めきれず、シュートも打てないような状況が続くと、徐々にアルゼンチンの優勝が現実味を帯びてきます。
私も「これは決まりかな」と思ったものです。
しかし、運命の神様はそれでは面白くないと思ったのか、とんでもない場面がおとずれてしまったのです。
延長後半11分、フランスの破れかぶれ気味の攻撃、適当に放り込んだクロスのこぼれ球を拾ったエムバペが目の前に群がるアルゼンチン守備陣を無視するかのような強引なシュート!
当然にようにブロックされますが、フランスの選手たちが一斉にハンドをアピール。
VAR判定の映像を視ると、確かにモンティエルの肘にボールが当たっていました。
身体に折りたたんでいたので悪質ではありませんが、ルールに照らせば間違いなくハンド。見逃したくはあってもこれは致し方ありません。
それで獲得したPKをエムバペが鋼のメンタルで決めて3-3の同点。
エムバペはハットトリック。
アルゼンチンの3点目はサッカーの楽しさ詰まったゴールならば、フランスのそれはサッカーの残念な部分が詰まったゴールでした。
運命の神様はアルゼンチンの美しい勝利を望んでいなかったようです。
アディショナルタイムにはフランスのコロムアニが一本のパスで抜け出し、決定的なシュートを放ったのをGKEマルティネスが右足で奇跡的に防ぐという場面もあって、アルゼンチン国民のなかには心臓が止まりかけたひともいるかもしれません。
そのすぐあとにラウタロがフリーで頭で合わせるも枠の外でしたし、最終盤まで目が離せない試合でした。
そして決着はPK戦へ。
120分の内容的にはアルゼンチンのゲームでしたし、”メッシ最後のW杯”でしたから、アルゼンチンの勝利を願った地球人が多かったとは思いますが、PK戦ばかりはどうなるかわかりません。
勝敗を分けるのはテクニックなのか、分析なのか、勝利への執念なのか…。
ただ、わかっていることがあります。
それは”1人目が大切”ということです。
特に先攻チームの1人目が成功させば場合は勝率が跳ね上がるといわれています。
それを知ってか知らずか、フランスの1人目のエムバペは涼しい顔でこの日3本目となるPKを見事に沈めて見せました。
メンタルもフィジカルも最高の選手ですし、この試合ではキャプテンシーのようなものまでも感じさせました。
これでフランスにいい流れができたのは間違いなかったのですが、それをすぐさま断ち切ったのはアルゼンチンの1人目、リオネル・メッシでした。
GKロリスの逆をつく緩いシュート。
数十億人の観戦者の意表を突く緩いタッチ。
この世紀の一戦の最も大事であろう場面で、このPKを選択する度胸はクレイジーすぎます。
はっきりいって人間じゃない。
このPKがネットに転がりこんだとき、世界中が感嘆と興奮に包まれたに違いありません。
こうしてメッシが勝利へ階をかけたあと、フランスの2人目をEマルティネスがファインセーブ!
アルゼンチンは2人目のディバラがゴールど真ん中にぶち込んで雄叫び!
これで完全にアルゼンチンの流れになると、フランスの3人目のシュートは枠外へ。
相手が2本連続で外すとお付き合いすることも多いものの、アルゼンチン3人目のパレデスは無慈悲に素晴らしいコースに蹴り込みます。
これで大勢は決したといっていいでしょう。
フランス4人目のコロムアニはスタンドのアルゼンチン応援団に負けることなく豪快なシュートを真ん中に決めますが、アルゼンチン4人目のモンティエルが落ち着いてロリスの逆をついてゲームセット!
アルゼンチンは36年ぶりのW杯制覇です!
メッシとその信奉者たちはついに長年の悲願を果たしたのです!
それにしても本当に凄い試合でした。
後半30分まではスカローニ監督の策がはまってアルゼンチンのワンサイドでつまらないゲームでしたけど、そこからデシャン監督の巧みな采配があってフランスが2-2の同点に追いつくと、火が点いたように面白いゲームになりました。
しかも両チームのエース、メッシとエムバペが持ち味を如何なく発揮しまくるのですから、漫画でもなかなか描けない展開です。
延長後半のPKは余計だったものの、PK戦でもメッシ、エムバペの凄味を堪能できたので、まあよしとしましょう。
私もこの試合は”メッシの試合”だったというのが率直な感想ですが、最も評価したいのはキリアン・エムバペです。
フランスが苦しい時間帯でもひとり奮闘し、流れが来たときはここぞの一瞬で決めてみせる、プレイでチームを引っ張る真のエースでしたし、世界最高の選手でした。
そんなエムバペが”最強の敵”として立ち塞がっていたからこそ、”主人公”であるメッシ、史上最高の選手が際立ったのです。
敵が魅力的で強くなければ物語は面白くないんです。
ご都合主義を排除した展開のなか、主人公が強敵の上を行くからこそ読者は目を釘付けにされるのです。
そしてまた名作の主人公というのは運まで引き寄せるものです。
この試合はすべてがメッシのいいように転がり、エムバペのゴールもメッシの物語のためのスパイスでしかありませんでした。
いやはや世界のひとびとはとんでもない試合を観てしまいました。
これはもはやサッカーの枠を超えた伝説です。
あらゆる宗教の信者も無神論者も、神の存在を感じたはずです。
本当に説明のできない試合でした。結末のわからない試合でした。
”God only knows”も”Solo Dios sabe”も直訳すれば”神のみぞ知る”ですが、まさにそういう試合でした。
人間にはわからない試合です。
しかしそんななかメッシだけはこの勝利を知っていたような気がします。
彼はこの試合の主人公であり、作者のようでもありました。
我々は彼の手の平、いや足の裏で遊ばれていたのかもしれません。
しかしそれは最高に楽しい時間でした。
彼の伝説を同時代で、リアルタイムで感じることができたのです。
世界中が幸せで包まれたといっていいでしょう。
これもまた人智を超えた御業です。


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