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麻婆豆腐は自由

肉ジャガの牛豚論争ではありませんが、少し前に仲間内で麻婆豆腐の挽肉になんの肉を使うかという話になった際、牛肉派の私は半々くらいになるかと思っていたら、意外にもほとんどが豚派で少数派の苦しみを味わうことになってしまいました。
四川料理といえばその代表格たる水煮牛肉がそうであるように牛肉のイメージですし、豆腐は肉豆腐がそうであるように牛肉と相性がいいので、「麻婆豆腐にもやっぱり牛挽肉だよね」と私も抵抗はしたんです。
ところが、豚肉派から「陳建一のレシピは豚挽肉だから」といわれてその場のすべてが決しました。
陳建一さんのご尊父である陳健民さんといえば、麻婆豆腐や海老チリ、回鍋肉といった中華料理を日本に広めた伝説的料理人ですから、その陳家のレシピには水戸黄門の印籠のような威光があったわけです。
私もその場ではひれ伏しました。

ただ、陳健民さんとえば「美味しいウソ」でも有名ですよね。
エビチリにケチャップを使うのも、回鍋肉を豚肉とキャベツの甘味噌炒めにしたのも、担々麺をスープ麺にしたのも、日本人の口に合うように、日本にある材料でも作れるようにという美味しいウソの結果です。
ですから必ずしも陳家のレシピが正解というわけではないんです。

実は麻婆豆腐もその最たる例のひとつなんです。
本場・四川省でのもともとのレシピだと牛ミンチですし、ネギではなく葉ニンニクですが、陳健民さんが日本に麻婆豆腐を紹介した60年代は豚肉の方が親しまれていて、ニンニクの葉も流通に乗っていませんでした。ニンニクの葉は2022年現在でもそう多くはありません。
そういう状況のなかで生み出したのが陳健民のマーボー豆腐というわけです。
いまでは当たり前の花椒(ホアジャオ)も使われていませんでしたし、まさに日本風麻婆といっていいでしょう。
この陳健民さんのレシピに近いと思われるものを健一さんが『自宅で作る麻婆度腐』としてYouTubeに上げてくださっています。

ちなみに、陳健民さんと同じくらい麻婆豆腐の普及に貢献したであろう丸美屋の麻婆豆腐も素は71年発売ですが、当時の原材料のなかには豆板醤とテンメンジャンは入っていません。辛味はラー油、甘味は砂糖でつけています。
そしてそもそものレシピにはないはずの”生姜”が入っているのも特徴といえるでしょう。
日本料理の豆腐のそぼろあんかけだと生姜を使うので、そこに辛味を足し、ニンニクとゴマ油で中華っぽくしたら日本人にも受け入れられやすいと考えたのかもしれません(現在はもうちょっと本格的な材料)。
この丸美屋の影響が強いのか、麻婆豆腐に生姜を使うお店やご家庭は多いようです。
私の家でもたっぷり使っていました。
私も実家流で作るときは生姜をたっぷり入れます。それも最後に細かく刻んだやつを。夏にはぴったりの爽やかさです。

そんなわけで、日本の麻婆豆腐に正解はない、というのが正解なのだと思うんです。
正解があるとしたら、挽肉は水分が飛ぶまでしっかり炒めることと、豆板醤(唐辛子)も油でしっかり炒めて香りを出すことくらいでしょうか。
これは陳健一さんの自宅レシピとお店レシピで共通している部分です。

もちろん挽肉だってなんでもいいんです。
結局、なにで作ったって、どうやって作ったって美味しいのが麻婆豆腐なんです。
その懐の深さ、自由さこそが人気の秘密といっていいでしょう。

…そういって、こないだ花椒を買い忘れた言い訳にしたんですけど、代役の粉山椒でも家族は美味しいといってくれました!
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甘くて苦いリンゴのカレー

田舎に住んでいる方だとわかると思うんですけど、いまの時期(11月~12月)って、親戚や知り合いから野菜や果物をたくさーんもらいますよね。
収穫の秋、それを冬に備えて蓄えるなか、余ったものをとにかく周りに配りまくるひとが多いので、コミュニケーションツールとして隅々まで行き渡るわけです。
我が家もそれらで溢れていて、最近はスーパーのカゴが軽くて大助かりです。

ただ、我が家はそんなに人員が多いわけでもないので、袋いっぱいにもらった大根やジャガイモは少なからぬプレッシャーになっています。
ある程度日持ちするとはいえ、劣化は避けられませんし、もらいものをダメにするのも気が引けるというものです。
くださる方は「大根はタクアンにして、ジャガイモは肉じゃが、カレー、コロッケであっという間でしょ?」という感覚ですしね。

というわけで、とりあえずジャガイモを使ってなにか作ろうと考えているとき、リンゴも目に入ったので、カレーにしました。
我が家でリンゴ入りのカレーといえば、亡き祖母のカレーです。
「リンゴとハチミツ、とろ~りとけてる♪」のハウス〈バーモントカレー〉に追いリンゴをして、隠し味に少しニンニクを効かせるのが祖母のカレーなのですが、私を含めた孫一同はそれが大好きで、夏休みに集まったときなどは、大鍋いっぱいのそれがすぐに空になったものです。

そんな祖母のカレーですが、祖母は孫たちに食事の手伝いをさせるということがないひとだった上に、自主的に手伝うような気の利いた孫もいなかったことから、誰も作り方を伝授されていないんです。
作り方は市販のルーのパッケージに書かれたそのままのはずですし、そこにリンゴとニンニクのすりおろしを入れればいいだけなのですから、簡単に出来そうなものですよね?
ところが、いざ再現しようとしても、誰もそれを成し得ないんです。
私も少し前の正月に親戚が集まったとき、お節料理に飽きた連中が「カレーが食べたい」というので、祖母のカレーにチャレンジしたのですが、全方位からのダメ出しを食らいました。

ポイントは、すりおろしたリンゴとニンニクを入れるタイミングのみのはずです。
具材を炒めるときなのか、煮込むときなのか、仕上げのときなのか。
私のやり方は、具材を炒めるときにニンニクを一緒に入れて香ばしく、リンゴは煮込みの最初の段階で投入というものでしたけど、どうもなにかが違う…。
炒めの段階でリンゴを入れてみても、やっぱり違う…。

ひょっとするとタイミングとかあんまり関係ないのかもしれません。
”大鍋でじっくり煮込んで作る”というのがシンプルな答えのような気がしてきました。
祖母の煮込みは”カレールーを入れてから”なので焦がすリスクも伴うのですが、他の家事をしながら、常に頭の片隅にカレーの鍋を置き、孫たちの喜ぶ顔を想像している、そうして気持ちを込めたからこそ完成した味なのかもしれません。

その煮込みでいうと、一度だけ祖母がそれを孫たちに任せたことがあったんです。
急用が入って、小一時間ほど外出しなければならなくなった祖母は、孫たちの一部が小学校高学年にもなっているということで、大切な火を預けました。
ところが、愚かな孫たちは、テレビやら漫画やらにうつつを抜かし、カレーを焦がしてしまったんです。
焦げ臭い匂いとともに、いまでも苦い記憶として刻まれています。
ただ、そのときの祖母は、目に薄っすら失意の涙を溜めるだけで、孫たちを一切叱りませんでした。
”任せた自分に非がある”という態度です。

これが孫たちには本当に堪えました。
怒鳴られた方が何倍もましだったと、いまでもみんなそういいます。
そして、そのことがあってから、みんなに少なからぬ責任感というものが宿ったような気がします。
私にとって、祖母のカレーというのはそういう味です。

来年の正月は武漢ウイルスもあって実家で集まるというのも難しくなりそうですけど、再来年のために、祖母のカレーの研究を深めようっと。
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5月2日だというのに真夏日

5月6日までとされていた武漢ウイルスのための緊急事態宣言は、一定の効果が出てきてはいるもののどうやらもうひと頑張り必要ということで、政府も延長の方針で話を進めていますが、国民の側も予想の範疇でしょうし、あまり反発の声もないようです。
もちろん巣ごもりによるストレスはかなり溜まっていることでしょう。それでもここは我慢して、武漢ウイルスを抑え込んでやろうというのが多くの国民の総意だと思います。

そんな巣ごもり生活のなかで、最も国民を悩ましているのは”食事”みたいですね。
感染リスクがあるので外食はなんとなく避けてしまい、デリバリーは高くついたり同じ店ばかりになって飽きちゃったりするので、”自炊”が中心になるわけですけど、巣ごもりが続くとそれがまたどんどん億劫になってくるわけです。
自由に外食できていたときは、本当に幸せでした。

それでもなんとか自炊生活に堪えるためには、モチベーションの維持が必要です。
手っ取り早いのは料理のレパートリーを増やすことでしょう。ネットのクッキングサイトもアクセスが増えているみたいです。
私もたまにはそれらを参考にしますが、それよりも私がお勧めしたいのは、”外国の調味料”です。
いまはスーパーでも簡単に色んな国のそれが手に入りますけど、例えばタイの魚醤〈ナンプラー〉を1本買ってきて、それを醤油の代わりに炒めものや和え物で使えば、まったく違う感じになります。
インドネシアやマレーシアでポピュラーな辛味調味料〈サンバル〉は、焼き飯にちょっと使えばナシゴレンに、焼きソバに使えばミーゴレンの完成です。
またベトナムの甘辛調味料〈シーズニングソース〉(マギーソース)は肉の漬けダレに最適です。バーベキューチキンをしたときの香ばしさはそれだけでヨダレが出てきます。

東南アジアの調味料ばかりの紹介になってしまいましたけど、魚介類(ナンプラーはカタクチイワシ、サンバルは小エビ)や大豆を発酵させた調味料は日本人の口に合いますし、これから日本は暑い季節になってゆくので、東南アジア料理は食欲を増進させます。
なんと、今日5月2日の長野市は気温32度という真夏日でした。

そして、そこに添えたいのが〈酢タマネギ〉です。
どこの国の料理にも合いますが、東南アジア料理には特にピッタリでしょう。
保存が利くので我が家の冷蔵庫にはいつもこれがあります。
紫タマネギで作れば色も綺麗になるので、それもお勧めです。

こうやってレパートリーを増やせば、1ヶ月くらいは大丈夫かも!?
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豆腐も風呂に浸かりたい

今年2019年の冬は、あきらかな暖冬傾向で、もうすぐクリスマスやお正月だというのに、なかなか気分が盛り上がってこないのは私だけではないかと思います。
まあ、私の住む長野市は、冬はけっこう身体にこたえるので、このままっでもいいんですけど、寒い時期は寒く、暑い時期は暑くないと、経済的にはおかしくなるそうです。
売れるはずのものが売れなくなるのですからね。
衣料品関係はもちろんですし、なんといっても”食べ物”にも大きな影響があります。
食品メーカーが出しているデータを見ると、特に”鍋物”なんかは頻度が減ってしまって、それにともない鍋用野菜やポン酢やタレの売り上げが大きく落ち込む傾向にあります。
消費者側の実感からしてもそうだと思います。家庭でもあんまり土鍋が活躍しなくなりますし、忘新年会でもなんとなく鍋物を選ばなくなってしまうものです。

また、生産者側でいえば、露地野菜が生育しすぎちゃって値崩れを起こしちゃうのは確実です。
昨年もそうでしたけど、またすぐにニュースで「出荷できずに処分しなければならない」という農家の悲鳴が聞こえてくることでしょう。
近年は暖冬の年が多いので、地球の気温がそういうサイクルに入っているのかもしれませんね…。
(※かといって小雪というわけではなく、寒波がやってきてドカっと雪が降ることも多くなっているので注意しましょう!)

というわけで、我が家でも今季はほとんど鍋料理をしていません。
トン汁や鱈汁なんかはまだ一度もやっていません。
思い返すと、白菜や大根もあんまり買っていませんね。
そんななか、マイブーム(死語!?)になっている鍋があるんです。
それは”湯豆腐”。
最近ふと気づいた作り方があって、それで食べたら美味しくて、頻繁にやるようになりました。

みなさんは、湯豆腐というと、水から煮ますか?それともお湯から?
某有名グルメ漫画や某食品メーカーのサイトなんかでは水からと書いてありますし、湯豆腐のお店でもそういうところがありますし、水から派が多いかもしれません。
私もずっと水からやっていたんですけど、マーボー豆腐で絹ごし豆腐をふわとろにするためには高温で調理しなければならないのだから、湯豆腐にも応用が利くのではないかと思い、土鍋で昆布出汁がふつふついっているところに網杓子で豆腐を入れ、すぐに蓋をし、火を止めるという流れでやってみたんです。
これが大成功でした。

調べてみると、江戸時代のベストセラー『豆腐百珍』では、〈湯やっこ〉の作り方として、葛湯を沸騰させたものに豆腐を入れ、豆腐が浮き上がってきたところで掬いだす方法が書かれています。
湯奴は湯豆腐のことで、関西ではいまでもこう呼ぶひとがいます。
考え方としては、豆腐を煮るのではなく、”温める”ということでしょう。
ちなみに、湯豆腐の本場京都には〈湯豆腐桶〉といって、豆腐用の風呂桶形鍋(椹製)があります。
桶に沈めた銅壺に炭を入れて湯を温めるというなんとも風流な仕組みになっていて、好みのサイズに切った豆腐をひとつひとつお風呂に入れ、温まったら掬う、を繰り返すわけです。
面倒くさいですけど、豆腐好きにはたまらないかもしれません。
(私はそこまではいいかな…。)

いくら暖冬とはいっても、やはり温かいものが食べたくなりますから、湯豆腐は調度いいですよね。
私はこれに生姜醤油をかけて食べるのが好きです。
生姜は風邪予防にもなりますし、いまの時期にぴったりです。
受験生にもぜひ!
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常夜鍋を囲む幸せ

私の住む長野県は寒暖差の激しい地域として知られていますが、このところも(2019年11月5日)日中はまさに小春日和という感じなのに、朝晩は気温が10度を下回ることも多く、冬の足音が徐々に近づいてくるような毎日です。
(台風被害の後片付けも急ピッチで進んでいるようです。長野市でもボランティアの方々の車や自衛隊の車両を見かけます。本当にありがたいことです。)

そんな冷えた夜には、やはり”鍋”が恋しくなってきますよね。
材料になる海鮮や肉類や野菜、そして信州が誇るキノコ類も美味しくなってくるので、土鍋が乾く暇もありません。
そうそう、土鍋は底が濡れた状態で火にかけると割れやすいので注意が必要です。割れ鍋に綴じブタというわけにもゆきませんからね。
そして、ブタといえば、我が家の今年のブームは常夜鍋です。
もうけっこうな回数こしらえています。

常夜鍋といえば、豚肉とホウレン草が基本ですけど、年齢が上がるほどこういうシンプルな鍋が美味しいんですよね。
我が家では他に具を入れるとしても、合計3、4種類くらいまでにしていて、大根の薄切りや太しめじ、豆腐や白菜といったものを選んでいます。
お出汁は一般的には昆布でしょうけど、ホウレン草がそれと同じくグルタミン酸が豊富なので、かつお節で取って、獣肉の鍋のときには必ず生姜をひとかけ鍋に入れるようにしています。
お酒も多目に注ぐのを忘れず、豚肉のときは芋焼酎があればそれが一番だと思いますけど、日本酒よりは少な目にしないと、酔っぱらいかねないので注意が必要です。
豚肉はちょっと脂が乗ったロースあたりがいいですね。その薄切りを塩麹でつけておくと、柔らかくなりますし、匂いもよくなります。
若いひとならイベリコ豚を使って、最後は脂と出汁で乳化したおじやなんて最高なんでしょうけど、私はもうダメかな…。

また、常夜鍋の”しゃぶ”か”ちり”かに関しては、その日の気分でいいと思います。
大事なのはホウレン草を煮過ぎないことですよね。
つけだれはポン酢を中心に、柑橘類やすりゴマで味を変化させるのもシンプルな鍋の楽しみ方のひとつです。
かんずりや柚子胡椒も好きです。

ちなみに、常夜鍋に小松菜を使う地域やご家庭もけっこうあるようです。
私はやりませんが、豚肉と小松菜の相性がいいのは炒めものなんかでわかっていますから、これだって美味いに決まっています。
そういえば、若者の間ではホウレンソウではなくキクナ・コマツナになっているという話を最近耳にしました。
これはなんのことかといいますと、”報告・連絡・相談”ではなく、”気にせず無理をするな””困ったら別のひとに投げろ”のことらしいです。
こういう職場だと一緒に鍋を囲むこともないんでしょうね…。
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