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2011スケートカナダ男子FS(後)

(続きです。)
SPでは1コケ、1パンクながらもなぜか首位と14.3差の3位につけたパトリック・チャン。FSも得意の異次元殺法による”狂威的”なスコアが出ることは確実でしょうけど、まずはそれを忘れて演技を楽しむことにします。なにしろ久々の新プログラムですからね。『アランフェス協奏曲』は弦楽器の奏でる旋律が切なく物悲しい名曲です。
冒頭は昨日助走でバランスを崩して転倒した4Tでしたが、またしても転倒。
それでもいつもの素早い起き上がりから何食わぬ顔で次の4T+3Tを正確に決めるのはさすが!
続いての鬼門、3Aは踏み切りのタイミングが合って、着氷は伸びなかったものの大きなジャンプ!
サーキュラーステップは染みるようなスケーティングとバランスのいい身体の動き。
この人のスケーティングはフットワークというより日本の芸能や体術でいうところの運足(すり足)に近いものを感じます。漕ぐことだけではなく、微妙な体重移動によって推進力を得ているように見えるんです。体幹を落ち着かせ、重心を安定させるところも和風だと思います。日本の芸能や体術が好きな方はパトリック・チャンのスケーティングへの興味がつきないんじゃないでしょうか。
ただ、このFSは新プログラムのせいなのか、調子が悪いのか、曲の哀愁に引っ張られるように体があまり動きませんでしたね。
後半頭のジャンプの助走ではつんのめるようなまさかの転倒、慌てて跳んだ3Lzでステップアウト、コンビネーションに繋がらず。3Loはクリーンだったものの、3Fでは着氷で体が大きく開くミス(たぶんここもコンビだったものの繋がらず)。スピンで気を取り直してから跳んだ3Lz+2Tはまずまず。ごつい姿勢のイーグルからの2Aは大きく軸ぶれ。
コリオステップでは珍しくスタミナが切れ気味で勢いがなく、どうも本調子ではないようでしたね。
全体的にはまずまずまとめたものの、大小ミスがあり、これではさすがに異次元優勝も厳しいか。
FSは170.46(84.82・87.64・減点2)、合計253.74。
スコアの”パトリック基準”は難解なので考えるのはやめておきます。
それにしても減点の2ですよね。
私なんかもそうですが、チャンの演技を見ていて、いくら転んだってあまり気にならなくなってしまっている人は多いんじゃないでしょうか。
でも、一昔前のフィギュアスケートって”転倒=敗北”だったはずです。
ですから選手はたとえ無様になろうとも、怪我の心配があろうとも、踏ん張り堪えたものです。
演技をひとつの作品とするならば、転倒はそれを台無しにしかねない”瑕疵”だという意識があったせいだと思うんです。
また、転倒が重大なミスであるという認識があったからこそ、転んだあとにそれを挽回するために己の限界を超えるような演技をする選手もいたわけです。
選手が全力をつくして作品を完璧に仕上げてゆく緊張感とともに、失敗を挽回する気迫もまたフィギュアスケートの醍醐味であり、興奮だったはずです。
これはパトリック・チャンだけのことではなく、ここ最近のフィギュアスケートでは、”転倒はスコア上のマイナスにすぎない”という感覚が選手にもジャッジにも、そして観る側にも蔓延しているような気がします。
しかし、そんなフィギュアスケートってどうなんでしょう?
パトリック・チャンはその能力からして現役最高の選手なわけですから、面白いフィギュアスケート、興奮するフィギュアスケートの牽引者であって欲しいものです。

チャンの不出来によってわずかながらも優勝への光明が見えてきた我らが高橋大輔。ミスを最小限に抑えればチャンスはある!曲は『Blues for Klook』、男の哀愁漂う燻し銀のプログラムです。
冒頭は夢の4F!でしたが回転不足の両足着氷。でもうまいこと転倒は回避。この技術高くなってきたかも…。
続いては得点源の3Aでしたけど着氷が乱れる悔しいミス。3Sもお手つき。
ただ、すっかり安心品質になったスピンと、揺れる男の心情をナイーブに描く精緻で巧みなサーキュラーステップは圧巻。こういう抑揚のない曲をここまで叙情的に表現できるのはさすが高橋!
そんなふうに感嘆のため息をついていたら、後半冒頭の3Aでステップアウトしてしまってコンビネーションに繋げられない痛恨のミス。これで”勝負”としてはかなり厳しい状況に。
しかし、それでも気持ちを切らさずに3F+3T、3Lo、3Lz+2T、3Fと立て続けにクリーンに決める高橋の気持ちの強さ、プロ根性(アマですが)には脱帽。コリオステップから最後のコンビネーションスピンまでの流れは時を忘れて見入ってしまいました。
FSは153.21(69.37・83.84)、合計237.87。
得点の稼ぎどころでことごとくミスをしてしまったのでこの技術点は仕方ありません。けれどもチャンとのPCSの差が納得いきません。5コンポーネンツの全てで負けていますからね。ジャッジに対する罵倒を文字に起こしたら容量不足になりそうなのでやめておきますが…。
しかし、この『Blues for Klook』は高橋大輔の演技者としての成長をまざまざと感じさせてくれますね。こういう進化をファンに提供し続けることが高橋くんの人気の秘密なのだと思います。
コンスタントに跳べる4回転がなくても、コンスタントに熱い声援を送るファンがいるんです。自信を持ってください!

初優勝への緊張からかやや青ざめた表情でリンクインしたのはハビエル・フェルナンデス(スペイン)。
しかし、その愁いを帯びたような整った顔立ちが古典的なヴェルディオペラに合わさってなんともいい雰囲気。
そんななかで跳んだ出だしの4Tでしたが、これが惜しくもお手つき。軸がななめになっていました。やっぱり硬くなったんでしょう。
それでもフェルナンデスは重く閉ざされた扉を蹴破るような4Sを完璧に着氷!これが若さか!
ただ、勢いに乗ってきたところでの3Aは回転不足気味で転倒。これもまた若さか…。
サーキュラーステップとコンビネーションスピンは前半のジャンプで乱れた呼吸を整えるようなゆっくり感。伸び伸び活き活きとしたステップやスピンはこのひとの持ち味でしたが、今季はジャンプの質を優先させているのでしょう。
その戦術がはまったのか、後半冒頭の3A+3Tはグッド!
しかし、3Lz+3Tは踏ん張り着氷、3Sは軸ぶれ、3F+2Tはステップアウト、3Loは2Loになって堪える形の着氷。まさに”足にきている”という苦しい状態でした。
終盤のスピンとコリオステップも酸欠で気持ちに体がついてきません。画面を通して激しい息遣いが聞こえてきそうなほど。
それでもフェルナンデスは自分の体に鞭を打つような必死の滑り。この絶望的な風情は『リゴレット』そのもの。観客は背中を押すような熱狂的な拍手(※カナダ人以外)。
フィニッシュしたフェルナンデスは膝に手を置き、肩をふいごのように上下させ、ちょっと悔しそうな表情。「自分はもっと出来る」と思っているんでしょうね。できますよ!
FSは165.62(85.48・81.14・減点1)、合計250.33で惜しくもチャンには届かずの2位。
高橋やチャンといったトップ選手はプログラムを最後までまとめ切る力があるので、そこの差でしょうか。
ただ、私はこのFSのスコアの高さにはかなり驚き。
昨季の世界選手権のFSでは『パイレーツオブカリビアン』を4Tと4Sを揃えたかなりの好演だったものの、スコアは149.10(TES84.32・PCS66.78)しか出なかったんです。ジャンプの構成もほとんど同じで、後半スタミナ切れをしたのも似ていましたけど、私には『パイレーツ』の方がいい出来だったようにすら思います。それがこの点差。
とりわけPCSの上がり方はちょっと尋常じゃありません。
もちろん私も世界選手権の低すぎるスコアにはかなりの不満を感じていましたから、それが上がって嬉しいには嬉しいのですけど、ここまで一気に跳ね上がるとさすがに疑問を感じざるを得ません。
今季のフェルナンデスくんが私の遠い記憶のなかでおぼろげに浮かぶブライアン・オーサーの若かりし姿によく似ているのも気になるところです…。
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