2011GPSロシア杯男子シングル(後)
(続きです。)
昨季もロシア杯に出場していて「ユズルーシカ」として現地でも人気の羽生結弦。彼の魅力は国や民族を超えてしまうんでしょうね。
羽生結弦のSPは三陸の美しい海を思わせる衣装をまとってのスクリャービンの『悲愴』。
優勝を実現させるために大切だった出だしの4Tは着氷したと思われた瞬間にまさかの転倒。コンビネーションには繋がらず。しかしバネ仕掛けのような素早さで立ち上がる羽生結弦。曲は『悲愴』でも彼のそれは痛ましさに挫けない強い心と立ち上がる勇気の結晶!
ミスを引きずらずに3Aを鳥のように決めた後はしなやかで美しいドーナツスピン、そしてリカバリーとは思えないくらい勢いのある3Lz+3T。ストレートラインステップの力強さと弾力感は圧巻。全身の筋肉が充実し、はち切れんばかりに躍動している感じです。こういう力感は昨季にはありませんでした。そのパワーは低空シットスピンと最後のコンビネーションスピンのの勢いと軸の安定にも現れていて、観ていてぞくぞくしてきました。
素晴らしいSPで、「そういえば4Tは転んじゃっていたんだ」って後になって思い出したくらいの内容です。
SPは82.78(TES45.20・PCS37.58)という思いがけない高得点でのパーソナルベスト!SPは2位。
この技術点には私もびっくり。まさかジャッジは4Tの転倒を見逃したのか!?(そんなわけありませんね。)
プロトコルを開いてみるとなんとステップ4!これは私は予想もしていませんでした。ガチンスキーもそうでしたけど、どういう基準なんでしょうか、よくわかりませんね。
FSはフェルナンデスがトータル241.63というハイスコアを叩き出したなか、集中した表情でリンクに姿を見せた羽生結弦。炎が灯ったような瞳には勝利の2文字しか映っていないかのよう。
『ロミオ+ジュリエット』(ディカプリオの映画)にのって気合十分で滑り出す羽生結弦、出だしはSPでの借りを返したい4T!でしたけどこれまた惜しくも転倒。ほんのわずかなところだっただけに悔しい!
イーグル3Aは抜群、3F、スピンもばっちりで流れを作り直しましたけど、3F+2Tを跳んだ後、サーキュラーステップに入ったところでバランスを崩してまさかの尻餅。がっくりうなだれる羽生結弦。
ショックなのはわかりますが”演技”を途切れさせてはいけません!
それでもなんとか勇気を奮い起こしてステップシークエンスに入っていった羽生結弦、徐々に気持ちを立て直しての後半冒頭の3A+3Tは凄まじい切れ味!旋風のようでした。
大きい3Lz、3Lo+2Tは根性、体力的に厳しいところでしたけどコンビネーションスピンもしっかりしていましたし、コリオステップにもまだまだ力強さが残っていました。
気持ちの入った3Sで繋いだ最後のスピンのとき、私も我知らず手を叩きながら応援。テレビからも羽生結弦を後押しするような大きな手拍子が聞こえていました。
演技後の羽生くんは胸を鞴のようにして喘ぎながら悔しそうな顔。目に見えるミスは2ヶ所。フェルナンデスのFSのそれは3ヶ所ですがあちらは4回転を2つ見事に着氷しています。けれどもプログラムを最後まできちんと滑りきれたのはどう見ても羽生くんの方。それにフェルナンデスと違って3回転ジャンプが2回転や1回転になったわけではないので現行ルールだとそんなにスコアは下がらないはず。
そして出てきたスコアは158.88(82.50・78.38・減点2)、合計241.66!0.03という紙一重の差で首位に躍り出ました!
FSはフェルナンデスに負けているのでSPでの4.28という大差がものをいった形ですが、私はフェルナンデスのFSのPCSにはかなり疑問を持っているので、羽生くんの技術点82.50(-減点の2)とフェルナンデスの技術点81.77とを比べたいです。そこでほとんど遜色がないわけですから、私なりのジャッジではSPでの差が少なくても羽生くんが勝っていたと思います。本当に力がついてきました、今季の羽生結弦は!
競技者ではなく表現者としての評価が定着しているジェジミー・アボット。今季はそれがいっそう加速しそうなほどに素晴らしい”芸”を見せてくれています。
SPは陽気なスウィングジャズで”全てがコリオステップ”といった濃密なプログラム。この日はあまり得意ではない3Aもきちんと入って、スピンの軸ぶれを忘れればパーフェクトといっていいくらいの内容。まさにアボットの独壇場で瞬きするのがもったいないくらい。おひねり投げ入れるひとがいてもおかしくありません。かなり好きですこのSP。SPは83.54(TES42.04・PCS41.50)で堂々の首位。
表現者としての道を極めようとしているふうにも見えるジェレミー・アボットですが彼の競技者としての誇りがつまっているのがFS冒頭の4T!でしたけどいつものごとく回転不足気味の転倒(足を捻るような転び方なので毎回ひやひやします)。
しかし3Aはお見事、シットスピンは優雅、3Fも綺麗。全身を生贄として美の女神に捧げたような脱力したサーキュラーステップは見ていてうっとり。
『エクソジェネシス交響曲第3部』の何かが静かに胎動している雰囲気を磨き上げられたボディラインとスケーティングで油絵を描くように塗り重ねてゆくアボット。こんな美しいプログラムはめったにありません。
しかし”勝負”という意味では最重要ともいえた後半冒頭の3Aで転倒してしまってコンビネーションに繋げられない大きなミス。続く3Lz+2Tはなんとか着氷したものの3Loは2Loになって、3Sからの3連続もバランスを崩して+2だけと不発。2度の転倒の影響か、どうも足にダメージが感じられました。
そしてアップライトスピンの後のコリオステップ、手のひらをリンクにつける仕草のところでリンクに赤々とした血の跡が。転倒の傷はこんなところにも。
しかしこの痛々しさが曲調とあいまってそこからの演技はさらに観客を惹きつけたのか、なんともいえない静かな雰囲気。
そしてコリオステップのなかでの2A、コンビネーションスピンで演技が終わると、会場からは割れんばかりの拍手。SP・FSを通してモスクワで最も人気があったのはアボットだったように思います。ジャンプ好きのロシア観客を高難度ジャンプなしに喜ばせるアボットの滑りこそまさに”表現力”ですね。
FSは145.54(64.10・83.44)、合計229.08で3位!
ジャンプの失敗はありましたけど、PCSが83点台まで上がってきたのは今後に向けて大きいんじゃないでしょうか(中国杯FSは80.50)。技術面でのミスさえ最小限に抑えられればGPFや世界選手権での表彰台の可能性もあるかも!
アボットのスコアが出た結果、2011ロシア杯男子シングルの優勝者は羽生結弦!16歳11ヶ月でのGPS初優勝!GPF進出も決定!羽生結弦の物語は新たな章へ入りました!
大会後、羽生くんは「自分の演技が100%できたわけではないが中国杯での(ミスから崩れた)反省を生かすことができた。優勝も初めて、表彰台も初めてで実感がない」とのコメント。
正直、ファンの私もまだ実感があまりありません。SP・FSで転倒が3つ、4回転も降りられませんでしたからそうなっちゃいますよね。次の目標はチャンピオンとしての演技を完遂しての優勝ですね!
羽生くんはいつでもどこでも観客から大応援を受けていますけど、いつか観客を応援できるような、観客に力を与えられるような滑りをして欲しいものです。それが真のチャンピオンの姿であり、羽生くんがいずれ担う日本のエースの姿でもあるんですから。
こうして2011ロシア杯男子シングルも爽やかに幕を下ろし、GPF出場の6人も高橋くん、羽生くん、チャン、ブレジナ、アボット、フェルナンデスに確定しました。
我らが日本男子は絶対エースと若手のホープという楽しみな2人。
日本男子初のGPF優勝の吉報を待っています!

昨季もロシア杯に出場していて「ユズルーシカ」として現地でも人気の羽生結弦。彼の魅力は国や民族を超えてしまうんでしょうね。
羽生結弦のSPは三陸の美しい海を思わせる衣装をまとってのスクリャービンの『悲愴』。
優勝を実現させるために大切だった出だしの4Tは着氷したと思われた瞬間にまさかの転倒。コンビネーションには繋がらず。しかしバネ仕掛けのような素早さで立ち上がる羽生結弦。曲は『悲愴』でも彼のそれは痛ましさに挫けない強い心と立ち上がる勇気の結晶!
ミスを引きずらずに3Aを鳥のように決めた後はしなやかで美しいドーナツスピン、そしてリカバリーとは思えないくらい勢いのある3Lz+3T。ストレートラインステップの力強さと弾力感は圧巻。全身の筋肉が充実し、はち切れんばかりに躍動している感じです。こういう力感は昨季にはありませんでした。そのパワーは低空シットスピンと最後のコンビネーションスピンのの勢いと軸の安定にも現れていて、観ていてぞくぞくしてきました。
素晴らしいSPで、「そういえば4Tは転んじゃっていたんだ」って後になって思い出したくらいの内容です。
SPは82.78(TES45.20・PCS37.58)という思いがけない高得点でのパーソナルベスト!SPは2位。
この技術点には私もびっくり。まさかジャッジは4Tの転倒を見逃したのか!?(そんなわけありませんね。)
プロトコルを開いてみるとなんとステップ4!これは私は予想もしていませんでした。ガチンスキーもそうでしたけど、どういう基準なんでしょうか、よくわかりませんね。
FSはフェルナンデスがトータル241.63というハイスコアを叩き出したなか、集中した表情でリンクに姿を見せた羽生結弦。炎が灯ったような瞳には勝利の2文字しか映っていないかのよう。
『ロミオ+ジュリエット』(ディカプリオの映画)にのって気合十分で滑り出す羽生結弦、出だしはSPでの借りを返したい4T!でしたけどこれまた惜しくも転倒。ほんのわずかなところだっただけに悔しい!
イーグル3Aは抜群、3F、スピンもばっちりで流れを作り直しましたけど、3F+2Tを跳んだ後、サーキュラーステップに入ったところでバランスを崩してまさかの尻餅。がっくりうなだれる羽生結弦。
ショックなのはわかりますが”演技”を途切れさせてはいけません!
それでもなんとか勇気を奮い起こしてステップシークエンスに入っていった羽生結弦、徐々に気持ちを立て直しての後半冒頭の3A+3Tは凄まじい切れ味!旋風のようでした。
大きい3Lz、3Lo+2Tは根性、体力的に厳しいところでしたけどコンビネーションスピンもしっかりしていましたし、コリオステップにもまだまだ力強さが残っていました。
気持ちの入った3Sで繋いだ最後のスピンのとき、私も我知らず手を叩きながら応援。テレビからも羽生結弦を後押しするような大きな手拍子が聞こえていました。
演技後の羽生くんは胸を鞴のようにして喘ぎながら悔しそうな顔。目に見えるミスは2ヶ所。フェルナンデスのFSのそれは3ヶ所ですがあちらは4回転を2つ見事に着氷しています。けれどもプログラムを最後まできちんと滑りきれたのはどう見ても羽生くんの方。それにフェルナンデスと違って3回転ジャンプが2回転や1回転になったわけではないので現行ルールだとそんなにスコアは下がらないはず。
そして出てきたスコアは158.88(82.50・78.38・減点2)、合計241.66!0.03という紙一重の差で首位に躍り出ました!
FSはフェルナンデスに負けているのでSPでの4.28という大差がものをいった形ですが、私はフェルナンデスのFSのPCSにはかなり疑問を持っているので、羽生くんの技術点82.50(-減点の2)とフェルナンデスの技術点81.77とを比べたいです。そこでほとんど遜色がないわけですから、私なりのジャッジではSPでの差が少なくても羽生くんが勝っていたと思います。本当に力がついてきました、今季の羽生結弦は!
競技者ではなく表現者としての評価が定着しているジェジミー・アボット。今季はそれがいっそう加速しそうなほどに素晴らしい”芸”を見せてくれています。
SPは陽気なスウィングジャズで”全てがコリオステップ”といった濃密なプログラム。この日はあまり得意ではない3Aもきちんと入って、スピンの軸ぶれを忘れればパーフェクトといっていいくらいの内容。まさにアボットの独壇場で瞬きするのがもったいないくらい。おひねり投げ入れるひとがいてもおかしくありません。かなり好きですこのSP。SPは83.54(TES42.04・PCS41.50)で堂々の首位。
表現者としての道を極めようとしているふうにも見えるジェレミー・アボットですが彼の競技者としての誇りがつまっているのがFS冒頭の4T!でしたけどいつものごとく回転不足気味の転倒(足を捻るような転び方なので毎回ひやひやします)。
しかし3Aはお見事、シットスピンは優雅、3Fも綺麗。全身を生贄として美の女神に捧げたような脱力したサーキュラーステップは見ていてうっとり。
『エクソジェネシス交響曲第3部』の何かが静かに胎動している雰囲気を磨き上げられたボディラインとスケーティングで油絵を描くように塗り重ねてゆくアボット。こんな美しいプログラムはめったにありません。
しかし”勝負”という意味では最重要ともいえた後半冒頭の3Aで転倒してしまってコンビネーションに繋げられない大きなミス。続く3Lz+2Tはなんとか着氷したものの3Loは2Loになって、3Sからの3連続もバランスを崩して+2だけと不発。2度の転倒の影響か、どうも足にダメージが感じられました。
そしてアップライトスピンの後のコリオステップ、手のひらをリンクにつける仕草のところでリンクに赤々とした血の跡が。転倒の傷はこんなところにも。
しかしこの痛々しさが曲調とあいまってそこからの演技はさらに観客を惹きつけたのか、なんともいえない静かな雰囲気。
そしてコリオステップのなかでの2A、コンビネーションスピンで演技が終わると、会場からは割れんばかりの拍手。SP・FSを通してモスクワで最も人気があったのはアボットだったように思います。ジャンプ好きのロシア観客を高難度ジャンプなしに喜ばせるアボットの滑りこそまさに”表現力”ですね。
FSは145.54(64.10・83.44)、合計229.08で3位!
ジャンプの失敗はありましたけど、PCSが83点台まで上がってきたのは今後に向けて大きいんじゃないでしょうか(中国杯FSは80.50)。技術面でのミスさえ最小限に抑えられればGPFや世界選手権での表彰台の可能性もあるかも!
アボットのスコアが出た結果、2011ロシア杯男子シングルの優勝者は羽生結弦!16歳11ヶ月でのGPS初優勝!GPF進出も決定!羽生結弦の物語は新たな章へ入りました!
大会後、羽生くんは「自分の演技が100%できたわけではないが中国杯での(ミスから崩れた)反省を生かすことができた。優勝も初めて、表彰台も初めてで実感がない」とのコメント。
正直、ファンの私もまだ実感があまりありません。SP・FSで転倒が3つ、4回転も降りられませんでしたからそうなっちゃいますよね。次の目標はチャンピオンとしての演技を完遂しての優勝ですね!
羽生くんはいつでもどこでも観客から大応援を受けていますけど、いつか観客を応援できるような、観客に力を与えられるような滑りをして欲しいものです。それが真のチャンピオンの姿であり、羽生くんがいずれ担う日本のエースの姿でもあるんですから。
こうして2011ロシア杯男子シングルも爽やかに幕を下ろし、GPF出場の6人も高橋くん、羽生くん、チャン、ブレジナ、アボット、フェルナンデスに確定しました。
我らが日本男子は絶対エースと若手のホープという楽しみな2人。
日本男子初のGPF優勝の吉報を待っています!


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