浅田真央サンクスツアーinビッグハット!(後)
(続きです。)
私は浅田真央のプログラムで最も好きなのは何か?と問われれば、色々ありすぎて迷うのですが、最も衝撃を受けたプログラムは何か?と問われれば、迷いなく『鐘』を挙げます。
あのプログラムはフィギュアスケートの域を超えていました。
浅田真央が内包する膨大なエネルギーが、そして彼女の内面の葛藤が、鐘の音の深く重い響きのように、こちらの魂を振るわせる、あんな経験は他のプログラムではなかったことです。
もちろん、『鐘』はファンの間でも浅田真央の代表曲のひとつに数えられますが、バンクーバー五輪での悔しい記憶が、浅田さん本にも、我々ファンにも大きく刻まれているせいか、エキシビションでも再演されることはありませんでした。
しかし、やはり”サンクスツアー”ならば演目に組み込まなければなりません。
そこで白羽の矢が立ったのは無良崇人くんです。
もともと男性っぽい曲ですし、無良くんの無骨さも相性が良いという見立てでしょう。
18年に軽井沢で観たときもそれは間違いではないと思いましたし、今回のビッグハットでは、無良くんが『鐘』をすっかり自分のものにしていました。現役時代に使っていれば、と思うくらいです。
また、代名詞の大きな3Aも現役さながらで、2本ともしっかり決めたのも立派でした。
サンクスツアーの立ち上げから浅田さんに賛同していたことといい、無良くんはこのツアーで男を上げましたね!
(『THE ICE』の〈浅田真央メドレー〉では小塚崇彦くんが『鐘』を滑っていました。)
この『鐘』もそうですけど、浅田真央というスケーターは男子さながら、いやそれ以上といってもいいパワーとトルクを持っているせいか、『チェロスイート』のような曲も完全に乗りこなすことができます。
薄い生地を幾重にも重ねたフワフワかつ重厚感があるという独特の衣装は、浅田真央の個性そのものといってもよく、それを着た浅田さんがチェロの重低音とともに観ているこっちにぐいぐい圧力をかけてくるようなこのプログラムは本当に圧巻です。
”重さ”と”速さ”を同時に感じさせるターンは浅田さんならではといっていいですし、パワーを表現できるスケーターは数多くいても、トルクを表現できるスケーターは稀有だということを、この『チェロスイート』は教えてくれます。
この曲のときは、圧倒された観客が声を失うのですが、その雰囲気も大好き。
ノンストップのショーもいよいよ終盤にさしかかり、大きな見せ場である『リチュアルダンス』の時間です。
まずは悪い魔術師が黒鳥に化けたような浅田さんが配下の雄鳥たちと一緒にリンクを黒の世界に染め上げ、息の合ったフォーメーションダンスで会場を沸かせると、続いて入場した女性陣たちは情熱の赤に身を包み、呪いを払うかのように舞い踊ります。
黒と赤はときには鍔迫り合いをし、ときには混ざり合い、勝負が永遠に続くかと思われたそのとき、突如として黒の女王が赤のドレスに早着替え!
何がどうなったか観客が驚いているうちに、男どもが追っ払われ、平和が訪れると、情熱の巫女たちが美しくも激しい舞を披露し、リンクは大団円。
男性陣の悪が香る演技もカッコよかったですし、女性陣のダンスも華やかでした。
『リチュアルダンス』(『恋は魔術師』)は浅田さんの現役最終年で使ったプログラムで、怪我もあって苦労していましたけど、ショーにはぴったりな曲なので、大いに挽回しましたね。
(『踊るリッツの夜』から『素敵なあなた』のときの早着替えはマジシャンカーテンを使っているので、なかで頑張って着替えているんだろうとは思いますが、この『リチュアルダンス』のそれは本当にわけがわかりません。超魔術ですね。)
続いてはみなさんお待ちかねのラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番』。
私も音楽を聞いただけで胸にこみ上げてくるものがあります。
男性陣が次々と入ってきて群舞になる形から、最後に登場するのは浅田真央!
あの集大成のソチ五輪を思い起こさせるステップを踏み、そこからコンビネーションジャンプ!
ダブルループが2連続3連続と重なり、観客があっけにとられていると、まだ続く、まだ続く、と数えきれないくらい重なる超連続コンボ!
それが決まると会場はこの日一番の大盛り上がりで、浅田さんもよっしゃあ!という表情!
そして最後はみんなで手を胸にあてて体をのけぞらせる、あの有名なフィニッシュポーズ!
会場はもちろんスタオベ。気分はソチのアイスバーグ・スケート・パレスです。
浅田真央といえばトリプルアクセルで語られることが多いわけですが、「タラ・リピンスキーに憧れていた」というように、小さい頃からの得意技であり、最も頼りになる武器がループジャンプでした。
「天才少女」と呼ばれたのも小学生でセカンド3Loを跳んだからです。
そのループジャンプの連続を、小さい頃から幾度となく試合をしたこのビッグハットで披露する、これは長野市民への最大のサンクスといっていいでしょう。
…ただ、このところ毎年ビッグハットで開催されている全中フィギュアは、浅田さんの時代はまだ全国持ち回りだったので、長野市では行われていません。
浅田さんのビッグハット初降臨はおそらく03年の全日本だと思われます。
ショーを締めくくるプログラムは、純白の衣装に身を包んだ浅田さんと仲間たちの『Wind Beneath My Wings』。
浅田さんは天使とか女神とか形容されることも多いですけど、私のイメージは天女です。
この『Wind Beneath My Wings』は衣装も天人の羽衣のようですし、能の『羽衣』和合之舞に似た浮遊感と恍惚感がありました。
ラフマニノフであれだけ重く滑ったひとが、今度は驚くような軽さで滑る。
この二面性もまた浅田真央の魅力でしょうね。
どっちも好き。
今井遥さん、林渚さん、ガンスフ・マラル・エレデンさん、山本まりさん、河内理紗さんもツレの天女のようでした。みんなで合せたスピンが美しかった。
女性陣は、それぞれがいくつかのプログラムでキーとなる役目を任されていましたけど、どれも想像以上のクオリティーを発揮してくれていました。
浅田さんがリンクにいないときでも、それを感じさせなかったといえばいいすぎになるかもしれませんが、そういいたくなるほどの活躍でした。
浅田さんは、ほんといいメンバーを揃えましたねえ。
そしてあっという間にやってきたフィナーレでは、キャストたちはみな”やりきった”という爽やかな表情。
休憩なしのノンストップなのでかなり大変だと思いますけど、キャストたちの身体をつき動かしていたのは、観客への感謝の気持ちとフィギュアスケートへの愛情だったに違いありません。
お客さんにお辞儀をした川原星くんが、なかなか顔を上げられなかったのも印象的です。
彼ら・彼女らからは、一期一会の気持ちを強く感じました。
このサンクスツアーは「全国のリンクを回る」という当初の目的を達成したためか、今年の10月で終了とのことですが、ファンとしてはさらなる延長を求めてしまいます。
18年5月に始まってから、みんなの結束が強まり、プログラムも成熟してきたのに、今年で終るというのは、もったいないような気がしてなりません。
ビッグハットに響く「真央ちゃーん!」という大声援も、それを求めているように聞こえました。
もちろん、浅田さんやキャストたちにも人生設計があり、簡単でないのもわかります。
ただ、感謝うんぬんを抜きにして、このショーは本当に価値があると思うんです。
小さな箱でもやってくれる、チケット代も一般のショーよりお手頃、乳幼児の入場制限もなし。
こういう身近なアイスショーの存在は、日本のフィギュアスケート文化にとって、とてつもなく大きいと思うんです。
ですから、サンクスではなく、ただ単に楽しむだけのショーとして、公演数を減らしてでも、もう少し続けてくれることを願ってやみません。
浅田さんのプログラムだって、まだまだ観たいのがいっぱいあります。ありすぎて困っているくらいです。
夢の時間を、もう少し!

私は浅田真央のプログラムで最も好きなのは何か?と問われれば、色々ありすぎて迷うのですが、最も衝撃を受けたプログラムは何か?と問われれば、迷いなく『鐘』を挙げます。
あのプログラムはフィギュアスケートの域を超えていました。
浅田真央が内包する膨大なエネルギーが、そして彼女の内面の葛藤が、鐘の音の深く重い響きのように、こちらの魂を振るわせる、あんな経験は他のプログラムではなかったことです。
もちろん、『鐘』はファンの間でも浅田真央の代表曲のひとつに数えられますが、バンクーバー五輪での悔しい記憶が、浅田さん本にも、我々ファンにも大きく刻まれているせいか、エキシビションでも再演されることはありませんでした。
しかし、やはり”サンクスツアー”ならば演目に組み込まなければなりません。
そこで白羽の矢が立ったのは無良崇人くんです。
もともと男性っぽい曲ですし、無良くんの無骨さも相性が良いという見立てでしょう。
18年に軽井沢で観たときもそれは間違いではないと思いましたし、今回のビッグハットでは、無良くんが『鐘』をすっかり自分のものにしていました。現役時代に使っていれば、と思うくらいです。
また、代名詞の大きな3Aも現役さながらで、2本ともしっかり決めたのも立派でした。
サンクスツアーの立ち上げから浅田さんに賛同していたことといい、無良くんはこのツアーで男を上げましたね!
(『THE ICE』の〈浅田真央メドレー〉では小塚崇彦くんが『鐘』を滑っていました。)
この『鐘』もそうですけど、浅田真央というスケーターは男子さながら、いやそれ以上といってもいいパワーとトルクを持っているせいか、『チェロスイート』のような曲も完全に乗りこなすことができます。
薄い生地を幾重にも重ねたフワフワかつ重厚感があるという独特の衣装は、浅田真央の個性そのものといってもよく、それを着た浅田さんがチェロの重低音とともに観ているこっちにぐいぐい圧力をかけてくるようなこのプログラムは本当に圧巻です。
”重さ”と”速さ”を同時に感じさせるターンは浅田さんならではといっていいですし、パワーを表現できるスケーターは数多くいても、トルクを表現できるスケーターは稀有だということを、この『チェロスイート』は教えてくれます。
この曲のときは、圧倒された観客が声を失うのですが、その雰囲気も大好き。
ノンストップのショーもいよいよ終盤にさしかかり、大きな見せ場である『リチュアルダンス』の時間です。
まずは悪い魔術師が黒鳥に化けたような浅田さんが配下の雄鳥たちと一緒にリンクを黒の世界に染め上げ、息の合ったフォーメーションダンスで会場を沸かせると、続いて入場した女性陣たちは情熱の赤に身を包み、呪いを払うかのように舞い踊ります。
黒と赤はときには鍔迫り合いをし、ときには混ざり合い、勝負が永遠に続くかと思われたそのとき、突如として黒の女王が赤のドレスに早着替え!
何がどうなったか観客が驚いているうちに、男どもが追っ払われ、平和が訪れると、情熱の巫女たちが美しくも激しい舞を披露し、リンクは大団円。
男性陣の悪が香る演技もカッコよかったですし、女性陣のダンスも華やかでした。
『リチュアルダンス』(『恋は魔術師』)は浅田さんの現役最終年で使ったプログラムで、怪我もあって苦労していましたけど、ショーにはぴったりな曲なので、大いに挽回しましたね。
(『踊るリッツの夜』から『素敵なあなた』のときの早着替えはマジシャンカーテンを使っているので、なかで頑張って着替えているんだろうとは思いますが、この『リチュアルダンス』のそれは本当にわけがわかりません。超魔術ですね。)
続いてはみなさんお待ちかねのラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番』。
私も音楽を聞いただけで胸にこみ上げてくるものがあります。
男性陣が次々と入ってきて群舞になる形から、最後に登場するのは浅田真央!
あの集大成のソチ五輪を思い起こさせるステップを踏み、そこからコンビネーションジャンプ!
ダブルループが2連続3連続と重なり、観客があっけにとられていると、まだ続く、まだ続く、と数えきれないくらい重なる超連続コンボ!
それが決まると会場はこの日一番の大盛り上がりで、浅田さんもよっしゃあ!という表情!
そして最後はみんなで手を胸にあてて体をのけぞらせる、あの有名なフィニッシュポーズ!
会場はもちろんスタオベ。気分はソチのアイスバーグ・スケート・パレスです。
浅田真央といえばトリプルアクセルで語られることが多いわけですが、「タラ・リピンスキーに憧れていた」というように、小さい頃からの得意技であり、最も頼りになる武器がループジャンプでした。
「天才少女」と呼ばれたのも小学生でセカンド3Loを跳んだからです。
そのループジャンプの連続を、小さい頃から幾度となく試合をしたこのビッグハットで披露する、これは長野市民への最大のサンクスといっていいでしょう。
…ただ、このところ毎年ビッグハットで開催されている全中フィギュアは、浅田さんの時代はまだ全国持ち回りだったので、長野市では行われていません。
浅田さんのビッグハット初降臨はおそらく03年の全日本だと思われます。
ショーを締めくくるプログラムは、純白の衣装に身を包んだ浅田さんと仲間たちの『Wind Beneath My Wings』。
浅田さんは天使とか女神とか形容されることも多いですけど、私のイメージは天女です。
この『Wind Beneath My Wings』は衣装も天人の羽衣のようですし、能の『羽衣』和合之舞に似た浮遊感と恍惚感がありました。
ラフマニノフであれだけ重く滑ったひとが、今度は驚くような軽さで滑る。
この二面性もまた浅田真央の魅力でしょうね。
どっちも好き。
今井遥さん、林渚さん、ガンスフ・マラル・エレデンさん、山本まりさん、河内理紗さんもツレの天女のようでした。みんなで合せたスピンが美しかった。
女性陣は、それぞれがいくつかのプログラムでキーとなる役目を任されていましたけど、どれも想像以上のクオリティーを発揮してくれていました。
浅田さんがリンクにいないときでも、それを感じさせなかったといえばいいすぎになるかもしれませんが、そういいたくなるほどの活躍でした。
浅田さんは、ほんといいメンバーを揃えましたねえ。
そしてあっという間にやってきたフィナーレでは、キャストたちはみな”やりきった”という爽やかな表情。
休憩なしのノンストップなのでかなり大変だと思いますけど、キャストたちの身体をつき動かしていたのは、観客への感謝の気持ちとフィギュアスケートへの愛情だったに違いありません。
お客さんにお辞儀をした川原星くんが、なかなか顔を上げられなかったのも印象的です。
彼ら・彼女らからは、一期一会の気持ちを強く感じました。
このサンクスツアーは「全国のリンクを回る」という当初の目的を達成したためか、今年の10月で終了とのことですが、ファンとしてはさらなる延長を求めてしまいます。
18年5月に始まってから、みんなの結束が強まり、プログラムも成熟してきたのに、今年で終るというのは、もったいないような気がしてなりません。
ビッグハットに響く「真央ちゃーん!」という大声援も、それを求めているように聞こえました。
もちろん、浅田さんやキャストたちにも人生設計があり、簡単でないのもわかります。
ただ、感謝うんぬんを抜きにして、このショーは本当に価値があると思うんです。
小さな箱でもやってくれる、チケット代も一般のショーよりお手頃、乳幼児の入場制限もなし。
こういう身近なアイスショーの存在は、日本のフィギュアスケート文化にとって、とてつもなく大きいと思うんです。
ですから、サンクスではなく、ただ単に楽しむだけのショーとして、公演数を減らしてでも、もう少し続けてくれることを願ってやみません。
浅田さんのプログラムだって、まだまだ観たいのがいっぱいあります。ありすぎて困っているくらいです。
夢の時間を、もう少し!


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