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卯年を前に出汁文化について

だいたいのお宅がそうであるように、我が家でも大晦日は午前中に掃除を済ませ、簡単な昼食を取ってしばし休んだのち、年取り膳の準備になるわけですが、まずは出汁を引くところから始まります。
昆布と鰹節の一番出汁なので取るではなく、”引く”ですね。
そして二番出汁は”取る”感じで絞り出して、これは野菜の下ごしらえに使います。普段はここまでしませんが、年取りなので真面目に行きます。
そうして家中がお出汁のいい香りに包まれるのが日本の大晦日というものです。

その香りをかぎながら、ふと思ったんですけど、やはり和食というのはお出汁の料理です。
「素材を味をそのまま生かすのが和食」だなんていうのは嘘っぱちです。
そういう食べ方は刺身とか焼き魚くらいしかありません。
あとはなんでも出汁を利かせます。出汁を使わない料理の方が珍しいです。

たとえば煮物。
日本では出汁をベースにしないそれは存在しませんが、西洋を代表する煮物であるフランスのポトフは肉と野菜を水から煮込んだだけの料理です。
インドの煮込み料理といっていいカレーにしても、野菜をよく炒めたものが味のベースになっていて、基本的にはブイヨンのようなものは使いません。

野菜の和え物(サラダ・温サラダ)についても、日本のそれは調味液にお出汁が入っていたり、野菜を湯がくのに二番出汁を用いたりしますが、西洋では調味料のみで和えます。マヨネーズやオイル&ビネガーのドレッシングを想像すればよくわかるはずです。
日本と同じくお出汁(スープ)を多用する中国料理ですら和え物は調味料や油だけでシンプルに作るのですから、和食の尖り具合がよくわかるというものです。

他にも日本人は揚げ物である天婦羅のツユもお出汁ベースですし、タコ焼きやお好み焼きといったB級グルメにもお出汁を利かせますから、そのこだわりには限界がありません。
日本人は外国に行って本場の料理を食べた際、「味が薄い」と感じることが多いそうですが、塩気や調味料の風味ではなく”旨味”が足りないと感じているわけです。
イギリス料理なんてその代表例です。伝統のウナギのゼリー寄せは水とちょっぴりのお酢とスパイスで煮ただけですし、パセリスープも日本人なら未完成品だと思うはずです。

もっとも、私は外国料理が和食に劣るといっているわけではありません。
外国料理こそ素材を生かしているケースが多いからです。
たっぷりの野菜ととろとろに煮込んだり、野菜のペーストをベースにしたり、乾燥・塩漬けの肉や魚を上手く利用したり、これはこれで料理の哲学が違うだけで、とっても美味しいんです。
実は最近の私は出汁をあまり使わない料理に凝っています。
この方が食材をたくさん食べられますし、滋味あって、健康的な気がしているんです。
肉や魚を適量使えば旨味も十分ですしね。

そもそも和食の出汁文化というのは、鎌倉時代に禅宗と一緒に日本にもたらされた精進料理が起源と考えられていて、ようするに野菜のみで料理を作るととうしても旨味が足りず、お出汁でそれを補ったというわけです。
もちろん精進料理のお出汁は動物性は厳禁で、すべて植物や菌類や海藻でどうにかしたものですが、その執念たるや、ある意味、煩悩そのものかもしれません。
そして、いいにくいんですが、〈捨身月兎〉という仏教説話もあるのですから、本当は仏教者もお肉食べてたんじゃ…。

まあそんな般若湯のような話はさておき、考えてみるとお出汁も”他の食材のために自分を捨てる”のですから、これも捨身そのものです。
捨身は菩薩行の修業のひとつであり、菩薩行といえば”利他”の精神ですが、それは日本人の特色ともいわれていて、世界的にも評価されている点です。
和食の文化とともに守って行きたい精神性です。
来年は卯年だけになおさらです。
煙になるほど捨身するのはやりすぎとは思いますが、意識だけは大切にしたいものです。

というわけで、この2022年もありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。
それでは、よいお年を!
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