2014GPF男子FS(後)、羽生結弦の圧勝とハイスコア

(続きです。)
この時点で日本選手表彰台独占の夢は破れてしまっていたものの、3人送り込んだのだからメダルは2つ欲しいというのが、計算上の期待値。日本の多くのひともそう思ったことでしょう。しかも次に滑る町田樹は昨季の世界銀メダリストであり、実力、安定感ともに日本代表の頼れる兄貴分。
しかし、この日の町田樹は初っ端の4Tで転倒、次の4Tでは手をついてコンボにならないミス、ダメを押すようにして1Aという阿鼻叫喚のスタート。私も頭が真っ白になりそうでした…。
それなのにスタンドからは温かい拍手が。バルセロナっていいところですね。
町田樹もそれに助けられるようにキャメルスピンを回ってからの3Sは綺麗な跳躍、そしてそこから流れを切らさないでステップに突入し、そのなかの振り付けのような3Loでしたけど、踏み切りからおかしなジャンプ、そのまま息継ぎをしないでシットスピン、一連のシークエンスの結びともいえる3Aは助走にいつもより間を持たせたものの転倒。
ここはこの『第9』の見せ場であり、最難関でしたけど、まさかの轟沈。これまでで最悪でした。
日本のファンの方々などは気を失いかねないここまでの演技ですけど、それでも町田くんは気持ちを切らすことなく、3F+2Tを着氷、音楽が盛り上がるなかのコレオも必死の滑り、最後は会場と日本からの祈りを受けて、3Lzも成功!
そうして最後のコンビネーションスピンも集中した回りって演技を締めくくった町田樹ですけど、さすがに愕然とした表情。
いったいどうしたんでしょうねえ、いくらなんでも崩れすぎです。
このプログラムはジャンプが振り付けのようになっている箇所が多いので、そこでミスがあると演技そのものも台無しになってしまうハイリスクハイリターン。この日は本当に残念な内容でした。
FSは128.31(56.23・75.08・減点1)、合計216.13。
PCSは思ったより下がりましたけど、町田くんのセイフティーネットはこのくらいということなのでしょう。
大会後の一般各紙の報道によると、町田くんは大学の卒論で調整が遅れ、一度は出場の辞退届を出していたそうです。
そういう状態で挑めるほど生易しいベートーベンではなかったということですね。
しかし、交響曲第9番といえば日本では年末年始の曲。
全日本での復活を待っています!

ここまでの選手がスコアを伸ばせず、しかもSPで2位以下に6点以上の差をつけていた羽生結弦(フェルナンデスとは約15点差)が優勝に必要なFSのスコアは160点強。彼の実力、SPでの状態を考えれば、優勝は間違いありません。
あとはその演技内容です。
シーズン前に羽生結弦は「王者に相応しいスケーターだと認めてもらいらい」と語っていましたけど、衝突アクシデントもあって、残念ながらここまでそれを証明できていません。
しかも、「○回転んで○位」みたいな屈辱的報道もされているのですから、このままじゃ本人も我慢がならないはず。
すべてを吹き飛ばす圧倒的な滑りで、雷帝と化せ、羽生結弦!
などと私は期待を込めてFSの『オペラ座の怪人』を見守っていたわけですが、最初にいってしまうと、まさに想像以上の出来。
まずは4S、4T、3Fと余裕すら感じさせる抜群の飛翔でスタートすると、美しくキレのあるコンビネーションスピン、滑らかなスケートで優雅さを感じさせるステップシークエンスで怪人の恋心を表現すると、場面を変化させるような後半冒頭3Lz+2Tは流れるような着氷、得意の3A+3Tと3A+1Lo+3Sは後半とは思えない大きさと迫力。ここのジャンプは曲の雰囲気を盛り上げる”演技”にもなっています。
続いての3Loも気合の入ったいいジャンプ、これはいわゆる”神演技”になる誰しもがそう思ったであろう最後の3Lzは足が棒みたいになって悔しい転倒。乳酸が溜まり過ぎていましたね。
そうして悔しそうな笑みを浮かべながら立ち上がった羽生結弦は見せ場のコレオシークエンスへ、残念ながらここはへばりが見えて終盤のハラハラドキドキを表現できませんでしたけど、結びの2つのスピンは技術にブレがなく、いい印象のままフィニッシュ!
集中力、気合、誇り、そんなものが演技の迫力に繋がっていましたし、素晴らしい競技的興奮に満ちていました。
本人は悔しさのなか充実が見える表情でしたけど、確かな手ごたえを掴んだでしょう。
それにしても、いい匂いがしてきました。これを繰り返すことが大事です。もうすぐですよ、もうすぐ、我々の求める羽生結弦が誕生するのです!
FSは194.08(103.30・91.78・減点1)でパーソナルベスト!合計は288.16で他をねじ伏せるような優勝!これこそ羽生結弦のスタイルです!
GPF2連覇、おめでとう!

という羽生結弦の演技を私は感嘆しながら観ていたわけですけど、一緒にいた相方は「点数が高すぎるんじゃないか」と
呆れたようにいうんです。
まあ、冷静にいえばそうでしょうね。私もPCSの部分には驚きました。
PCS2位のフェルナンデスとは4.56差、3位のコフトゥンとは12.89差、4位のボロノフとは14.78差。
フェルナンデスも高すぎる部類なのでちょっと置いときますけど、その下とはえらい差があるものです。正直いってこんなに差はないんじゃないでしょうか。
相方は今回のFSなら「下は75、上は85くらいが妥当」といっていましたけど、私もそれに一票(2人とも羽生くんのPCS1位には賛成)。そうやって圧縮しても、2位に30点差をつけてのダントツで優勝なんです。

PCS(表現面の評価)は明確な基準が示されていない部分ですけど、”法則”のようなものがあって、ひとつは演技内容いかんに関わらず選手の序列・成績によって上がってゆくというもの、もうひとつはSPのそれがFSでは2倍+α(1~2点)になること。
みなさんも世界選手権なんかで下位の選手がいい演技をしているように見えても、あまりPCSが出ないというのがあるかと思うんですけど、それはまさに序列の影響です。
ですから、フィギュア選手はまず技術点を伸ばして成績を上げ、そこからPCSの評価を上げてゆくという順を踏みます。その逆は「ない」といっていいです。
SPとFSのPCSに相関関係があるのも、本当は違うプログラムを演じるのですからおかしなものですが、これもPCSが目の前で演じられているプログラムを評価するというより、選手がもともと持っている評価そのものだ考えれば納得です。その日の出来によってあまり上下しないのもそのためでしょう。
羽生くんはそのPCSをこの1、2年でぐんぐん上げてきたわけですけど、彼は技術要素の基礎点が高く、しかもジャンプの質がいいので結果を出せますし、抜群のSPでFS(SPに比べるとあまりよくない)のPCSを引っ張り上げてきたわけです。
これまでも多くの選手が似たような上げ方をしてきたなかで、羽生くんはずば抜けた能力を持っているので、それが目立っているともいえるでしょう。

そのようにPCSというのは観客や視聴者にとってはわかりにくく、あやふやな部分ですけど、例えば高橋大輔やパトリック・チャンなどは飛びぬけて高い数字が出ても、ある程度の納得を残すことができました。それは会場の盛り上がり、フィギュアファンの評価、選手間の評価でもわかったことです。
しかし、残念ながら羽生くんにはまだそれがありません。
それなのにフィギュアの”法則”や”暗黙のルール”のなか、王者としての高いPCSが付いてしまう。
これは今後彼が乗り越えなくてはならない壁でもありますが、よく考えてみれば羽生くんはまだ20歳なんです。
かつての名選手たちを思い出してみても、これくらいの年齢でどの程度の演技を見せていたでしょう?
羽生結弦は王者点とのギャップによる重圧のなかで、よく戦っていますよ。
ですから私は彼のハイスコアへの批判が際限なく高まるのを憂慮しています。

私が思う羽生結弦の本質は、”客観的な強さへのこだわり”です。
フィギュアスケートにおける客観性とは、ジャンプの基礎点とその着氷率と回転確率(URにならない率)、スピンでの明確なポジションと回転、ステップシークエンスでのスピードと足元の技術の種類といっていいでしょう。
現役選手でいえば、羽生結弦はジャンプとスピンではナンバー1ですし、ステップでもトップクラスということができます。
しかもジャンプとスピンは誰が見たって質が高く、特にジャンプは前後に彩をつけて加点を増やすこともできる、これもまた客観的な技術です。
こういうものは本来、批判を跳ね除ける強さなんです。
「転んでも優勝」といえば少し前は某韓国女子やP・チャンの専売特許でしたけど、2人にはそれだけの客観性があったでしょうか?
この2人と羽生結弦はまったく別物だと私は強くいいたい。

そしてここからは想像ですが、羽生結弦はフィギュアの”あやふや”な部分を信じていないんじゃないかと思うんです。
フィギュアスケートというのは嫌な競技で、選手は急に押されることもあれば、急に梯子を外されることもある、今季のリプニツカヤなんかがそうですよね。
押されているときは弱点だった部分が見逃されるのに、梯子が外されるとそこが強調される、突如として微妙なエッジエラーや回転不足を取られて選手が混乱に陥る、なんてのはよくある光景です。特にこの6年ほどの日本女子はこれをよくやられましたよね。
ですから、それを眺めてきた羽生結弦という少年は、そういうフィギュアの邪悪な習慣に負けないよう客観的技術を磨いてきたのではないかと私は想像しているのです。

ただ、フィギュアスケートの演技というのは客観性だけで成り立っているわけではありません。
観客や視聴者が喜んだり興奮したり、感極まったりするのは、いい意味での”あやふや”な部分だったりするわけです。
「羽生結弦の演技はSPはよくてもFSはいまひとつだ」という声をフィギュアファンから聞くことがありますが、私も同じ感想です。
SPは時間が短く、羽生結弦が得意とする技術要素が凝縮しているので全体的に隙がなくなるのでしょう。
ただ、間合いが広がるFSになると”あやふや”な部分が必要となり、そこに技術要素ほどの才能を発揮できないので、FSはどこか物足りなく感じるのだと思います(スタミナ不足も)。
その原因を私は羽生結弦の客観性へのこだわりだと解釈しています。
しかし、その客観性は刻一刻と完成の領域へと近づいているのは間違いありません。
そして、その後に”あやふや”な部分に手を付けたとき、羽生結弦は歴史に残る絶対的な王者となるに違いありません。
ファンとしても、そのときまではハイスコアへの批判はぐっと我慢しようじゃありませんか!
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