2014全日本フィギュア男子FS(後)、日本男子の伝統

(続きです。)
これまでの選手がそれぞれ何らかの目標を持って全日本に臨むなか、3連覇へ視界良好の羽生結弦のそれはいった何なのか。
そんな興味を持って眺めていたFSですが、いきなり惜しい感じの4S転倒でスタート。
しかしその後は美しさと迫力を兼ね備えた4T、軽々と3Fも跳んで流れをすぐに引き寄せたのはさすが。
続くコンビネーションスピンの途中(キャッチフット)ではバランスを崩すも、すぐにバランスを立て直したのはスピンが得意な選手ならではの技術ながら、どうもこの日は調子が悪そう。ステップシークエンスでも滑りと動きの両方に大きさが欠けているように感じられました。
ただ、それでも羽生結弦が凄いのは後半の3Lz+2T、3A+3T、3A+1Lo+3S、3Lo、3Lzをどれも抜群の切れ味で跳んだこと。後半ジャンプでこれだけの質を見せられる選手を見たことがありません。
そうして終盤のコレオ、キャメルスピン、コンビネーションスピンは流す感じで演技を締めくくった羽生結弦。彼のFSといえば”全力へろへろ”が定番ですけど、この日は珍しく手を抜いているような内容だったのは残念。
FSは192.50(TES101.90・PCS91.60・減点1)、合計286.86。
4S以外のジャンプはどれもかなり綺麗に入っていたので技術点が高いのはわかりますがPCSは疑問。
解説の鈴木明子さんは審判をフォローしようとしたのか、「特に後半、ジャンプを跳ぶだけではなく…」と話し始めたものの「音楽にあった…、ジャンプでした…」と、どもっちゃっていましたけど、解説のしようもないんでしょうね。
羽生結弦はジャンプで勝てる選手なのですから、PCSなんて真っ当に評価された方がいいに決まっていますし、本人だって、それこそ望むことろじゃないでしょうか。
そんな自分の演技について羽生くんは試合後に、コンディション不良から「抑えた」と自ら語り、翌日のエキシビションを欠席して、検査のために東京の病院に向かったようです。
どの程度のトラブルなのかはわかりませんが、早く回復するといいですね。

信じるというより祈るのみ、そういう会場全体の雰囲気なかリンクに入ってきたのはいまや最年長となった小塚崇彦。SP6位(72.39)からメダルを掴むためにはかなりまとまった演技が必要です。
観客が息を呑むなか、まずは冒頭の4T!両足ながら立った!よし!
しかし、まだまだ観客は息継ぎをすることはできません、次は4Tからのコンビネーション、これも4Tが両足で回転不足気味ながら、着氷するとそこから+2T!よっしゃあ!会場も爆発的な盛り上がり!
3Aも軸が斜めになりながらビシっと着氷、そして深いポジションのぶれないシットスピン、いい序盤で完全に乗ってきた。
見せ場のステップシークエンスでは巧みなスケーティングと正確で美しい身のこなしで『これからも僕いるよ』ではなく、「俺はここにいるぜ!」といわんばかりの存在感。
そして勝負どころの後半冒頭3A+2T+2Loも勢いよく決めた!気迫を感じる素晴らしいジャンプ!
昨季から鬼門の3Lz+3Tも軽くステップアウトする程度に収め、3Fはこらえ、3Loと3Sは魂の着氷。
こうして小塚くんがジャンプを跳びきると会場は割れんばかりの大歓声で大盛り上がり、その風を受けるように安定したコンビネーションスピン、躍動感のあるコレオシークエンス、そして代名詞ともいえる高速アップライトスピンで演技を締めくくった小塚くんは見たこともないようなド派手なガッツポーズ!
会場も爆発したような総スタンディングオベーション、佐藤コーチ夫妻も両手を上げて大喜び、そして小塚くんと抱き合い、褒め称える、こういう姿はあの世界選手権銀メダルのときにもなかったんじゃないでしょうか、それだけこのFSが価値のある演技だったということです。
私もこれはもうスコアで評価する演技ではないと思います。小塚崇彦が己の価値をその誇りとともに全日本リンクに確かに刻んだ、それだけで十分です。本当に心に残る、心に沁みる演技でした。小塚を語る上で欠かせない演技になったのは間違いありません。
FSは173.29(84.29・89.00)、合計245.68。
技術点が思ったより高いような気がしないでもないですけど、もうそんなことどうでもいいです。
正確な技術で要素と表現を少しずつ積み上げてゆくという小塚くんのスタイルの完成形がついに見られた、という喜びが何よりなんです。
小塚くんはここ数年ジャンプが不調で結果は残せていませんでしたけど、その影で表現力の方はぐんぐん向上しているように私には思えました。
素人の私が小塚くんのような偉大な選手の技術をあれこれいうのは不躾かもしれませんが、以前の彼の上半身(特に腕)の使い方は体全体のバランスを取るための割合が多く、演技に繋がる割合が少なかったように見えたんです。それが昨季から上半身が生き生きと動くようになると同時に演技全体が華やかになり、観ていてぐいぐい引き込まれることが多くなっていました。
しかし、そういう進歩というのは結果を残して初めてクローズアップされるものです。そしてそれがこの全日本で示されたことが本当に嬉しい。いまの小塚くんは間違いなく日本一の表現者ですし、世界一といいたくなるくらい。
そしてまた、彼の素晴らしい演技を観ていると、日本のエースの滑りというのはこういうものだったと、再確認した思いもします。
質が高くて正確な技術、そしてそれを最後まで発揮できる体力と気迫。それが観客を喜ばせ続けてきたんです。
この日の小塚くんの演技はまさにそれを象徴していました。
後輩でいえば宇野昌磨はその伝統を確かに継承していますけど、小塚くんの背中を見て、もっと多くの若手たちがそこを目指して欲しいものです。
さすが小塚崇彦、その一言です!

「年末は僕の第9を観てくれ!」といってシーズンをスタートさせた町田樹。
ついにその日がやってきた!とばかりの気迫で4Tを降りたものの(コンボ予定もやや詰まって単独に)、次の4Tで転倒してしまってコンボにならない手痛いミス、3Aもこらえる感じで、どうも不安な立ち上がり。
そこからのパートは息継ぐひまもないくらい要素が続くこの交響曲第9番の見せ場であり正念場ですが、今季一度も滑り切れていないだけにかなり不安。
キャメルスピンから始まったその一連の流れ、3Sは見事に跳び、情熱溢れるステップシークエンス、3Loも降りた、息絶え絶えのなか回るシットスピン、足にきているのがわかる助走からは2A+2T。
3Aにならなかったのは惜しかったですけど、全体的にはまずまずよくやったと思います。
ただ、これでスタミナを使いすぎたのか次の3Fはステップアウト、これで表彰台も危うい。
終盤は気持ちのみで体を動かすコレオシークエンス、3Lzはびしっと決めた!ここは意地といっていいでしょうね。
そうして会場の大歓声に後押しされるようなコンビネーションスピンでフィニッシュした町田くんは、悔しさと清々しさが入り混じるような表情。学業の方で練習不足ともいわれていますし、おそらくいまの全力は尽くしたんでしょうね。
それでも、私はこの全日本での第9を心のそこから楽しみにしていただけに、本当にがっくりきました。それが正直な感想です。
FSは152.45(66.55・86.90)、合計242.61。
残念ながら『第9』の完成は見られなかったわけですが、このスコアでは四大陸や世界選手権に出場できるかどうか…。
このプログラムをこんな形で終わらせてはいけない!

NHK杯を制したシンデレラボーイ村上大介は、SPでも4位(81.28)という好位置につけていたので、ある程度まとまった滑りができれば初めての表彰台が、初めての世界選手権が見えてきます。
そんな緊張感が充満するなか、最終滑走で演技を始めた村上くんですが、冒頭から4Sを2連続で回転不足気味に転倒、シットスピンのあともまさかの1A。
滑り急いでいるのにジャンプの踏み切りで迷いが出ているという完全に自分のリズムを見失っている状態でした。
これが全日本の重圧か…。
後半冒頭の3Aも両足着氷でこっちも見るのが辛くなってきましたけど、それでも村上くんは諦めることなく3Lz、3Lo、3F、3Sと見事に成功。これは本当に立派。
こうして悔し涙のラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番』になってしまいましたけど、これをいい経験にして次に繋げて欲しいものです。今季、自分の持っている実力は十分に示したのですからね!
FSは120.80(51.00・71.80・減点2)、合計202.08。

この結果、2014全日本フィギュア男子シングルは羽生結弦の圧倒的3連覇、2位に新星宇野昌磨、3位には復活の小塚崇彦。
終わってみれば日本男子の伝統と未来が見えた、いい大会だったのではないでしょうか。
そして翌日、世界選手権には羽生結弦、町田樹、小塚崇彦、四大陸には宇野昌磨、無良崇人、村上大介の派遣が発表されたわけですけど、選手がかぶらないのはいい選考だったと思います。いま日本男子にはいい選手が多いので、それぞれにチャンスを与えて欲しいですよね。それがまた層を厚くするってものです。
という具合に世界選手権と四大陸が楽しみになってきたそのとき、町田樹から唐突に引退の発表が。
世界選手権も辞退し、この全日本が最後の演技とのこと。
代表発表とその壮行を兼ねた場でいきなりそんなことをし出すことに私もさすがに面喰いました。
引退するにしても発表会の前にスケート連盟にそれを届け、代表選考からも外してもらうよう告げるのが筋ではないでしょうか。私は全日本のあとの壮行会が大好きなので。
これで『第9』の完成も永遠になくなったわけですし、色んな意味で残念な幕引きでした。

フィギュアファンやメディアの話題の中心が選手の演技になるよう願うばかりです。
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