『THE ICE』2015(中)、思いやりが大切

(続きです。)
鈴木明子さんといえば、2013-14シーズンをもって引退したから各種テレビ番組での活躍が目立ち、いまはすっかりお茶の間のひとになってしまっていますけど、彼女が輝くのはやっぱり氷の上、そう思わせるエキシビションを披露してくれました。
春野寿美礼さんが歌う『星から降る金』の物語を伸びやかなスケーティングで膨らませ、旅立ちの王子に第二の人生を進む自分を
重ね合わせたような情感のこもった演技、プロスケーターとしての実力を存分に見せつけたといっていいでしょう。私も思わず見入ってしまいました。
やっぱり鈴木明子はすごい!

『THE ICE』はこれがもう3年目ということで、もうお馴染みとなったケイトリン・ウィーバー&アンドリュー・ポジェは、黒いTシャツに黒い革のパンツという出で立ちでのお洒落で情熱的なプログラム。
長身の2人がリンク狭しと踊りまくり、試合で見せない(ルール的に)ダイナミックなリフトを繰り返すと、会場は大盛り上がり!
この2人は『THE ICE』に初めて来たころは期待の若手でしたけど、いまや世界のメダリストですし、昨季はGPFの取りましたし、押しも押されぬトップスケーターですよね。演技も年々堂々として、見栄えがよくなっていますし、私もいつの間にかファンになっちゃっています。
プログラムの合間合間に垣間見られる人柄の良さもまた魅力ですよねえ。

続いての登場は『THE ICE』の大黒柱、ジェフリー・バトル。
いまや超一級の振付師となった彼ですが、演技でも手抜きは一切ありません。
静けさのなかにほんの少しのお茶目さを織り交ぜた品のあるプログラムのなか、3本のジャンプを見事に成功させると、顎の動きでアクセントをつける美しいイーグルで会場はすっかりバトルの虜。
演技の幅の本当に広いスケーターですけど、しっとりした曲だと彼のひとつひとつの姿勢と動きの美しさを堪能できるので、やっぱりファンはこっちを求めていますよね。
そして大歓声を浴びながら去ってゆくバトルですが、なんとも涼しげな笑顔。
パーフェクトの演技のあとにこの余裕はさすがの一言。夏の王子様ですね。
引退して6年というのが信じられない!(見た目も含めて!)

次に紹介されたのは、浅田真央、カロリーナ・コストナー、ジョアニー・ロシェットによるトリオプロ。
3人がカナダのローリー・ニコルのところで、かなり長くこの振り付けの練習していたというのは事前に漏れ伝えられていたので、これを楽しみにしていたファンも多かったことでしょう。私も今回の一番の見どころだと思っていました。
まず演技に入る前、ローリーの肉声で「平和を実現させるためには世界の協力が必要です」という英語のメッセージが流れてきたように、このプログラムのテーマは”PEACE”です(今年販売されていたチャリティTシャツもこの一環)。
そして宗教画の女神や天使を思わせる衣装で登場した3人が、ミサ曲『ベネディクトス』を背景に、空を滑るようにリンクのなかで舞い始めます。
3人ともに極めて美しいスケートと美しい身体表現能力の持ち主なので、この世のものとは思えない恍惚とした景色。
この3人が同じリンクにいることがもうすでに奇跡。
トリオということで位置取りやリズム合わせるのが取るのが難しいプログラムですけど、扇の要役がコストナー、現役を離れて久しいロシェットは他の2人に必死についてゆく感じ、そして全体のバランスを取るのが浅田さんという関係に私には見えました。
3人が重なるようなスパイラルから位置を入れ違う場面が象徴しているように、3人がお互いを”思いやり”ながら”協力”しなくては完成しないプログラムであり、また3人が思う存分に動けていたことでもわかるように、3人が互いの実力を認め合い、”下”の方ではなく、常に”上”の方で呼吸を合わせているのも、このプログラムには大切でした。
3人のなかでロシェットは最も現役から遠いので私もちょっぴり不安でしたけど、浅田さんと同時に2Aを決めたときは凄い気迫。このプログラムはロシェットのがんばりに支えられていた部分が大きかったと思います。今季でショーも引退するというロシェットですが、自らの価値を存分に示しました。
そんなロシェットに対する高負荷だけではなく、全体的に見ても細部まで意味を持たせた高難度のプログラムで、3人ともが持っているものを絞りつくしたといっていいでしょう。
これを日本縦断とはいえひと夏かぎりのショーでやらせるなんて振り付けをしたローリー・ニコルはまさに鬼です。
しかし、これも平和を実現させるのは、それほど難しいという彼女からのメッセージなのでしょう。
そして美の女神たちはそれを見事に乗り越えた。
3者が己のプライドをかけ、高い集中力でもってノーミスの演技をしてくれたお蔭で、究極の美の世界と、崇高なメッセージが観客のもとに届いたのです。
このプログラムは永遠に色あせないフィギュアスケートの金字塔です。

こうして2015『THE ICE』の前半も終わり、女神プロの余韻に浸っていると、DJから「トイレに行くひとはちょっと待って!」の声が。恒例のダンスレッスンですが、今年はVTRではなくコーチが生で教えてくれるというのです。
そしてDJが焦らすなか、リンクに飛び出してきたのはなんと浅田真央!
女神衣装からホットパンツとPEACE・Tシャツへの早着替え!
ヘッドマイクも装備した浅田さんは手慣れた様子でダンスレッスン、「みんな復習、じゃなくて予習をしてきたのかな、憶えるのが早い!」と観客をおだてて、会場もノリノリ。
女神プロでのコストナーやロシェットの引き立たせ方といい、ダンスレッスンといい、浅田さんって”座長”としても貫録が出てきましたよねえ。

続いても恒例の出演者インタビュー。
聞き手は浅田舞さん。ダンスレッスンは外れても、こっちはやっぱり舞さんじゃなきゃしっくりきません。
7月30日の第2部のゲストは、カロリーナ・コストナー、パトリック・チャン、アデリーナ・ソトニコワで、3者ともに”ソチ五輪のメダリスト”という繋がりだそうです。
しかし、その思い出を聞いてみると、ソトニコワは「人生最高の瞬間」といいながらも険しい表情、チャンはいつもの作り笑顔で「友達が多くできた五輪だった」とまったく競技には触れません。
3度目の五輪でようやくメダルをつかんだコストナーだけは嬉しそうに振り返っていましたけど、ソトニコワは五輪金メダルが妙なプレッシャーになってしまっていますし、チャンは優勝候補筆頭で臨みながらSP・FSでミスを連発して日本の新星に金メダルをさらわれたのですから、あまり思い出したくもないのでしょう。もう1年以上も前のことですしね。
また、次の質問は3者ともに昨季は休養していたということで、”今季への意気込み”だったんですけど、足の靭帯の怪我を直したばかりだというソトニコワは「ロシア選手権とヨーロッパ選手権に出られるように」というやや自信なさげな返答、チャンは「GPFを狙いたい、できればね」という茶目っ気と余裕。
そしてコストナーはというと、「昨季は家族と過ごしたり、大学に行ったり、普通の20代の女の子のようなことができた」とのみ語り、今季についての言及はありませんでした。
日本でも報道されているように、コストナーは元恋人の競歩選手がドーピング違反を犯し、それを幇助したとの疑いでイタリアオリンピック委員会から試合出場処分を科せられ、いまのところ今季は試合に出られないことになっているんです。
係争中なので処分変更されるかもしれませんが、そういうトラブルを抱えた選手に今季の意気込みを聞くというのは酷すぎます。
ソチ五輪のことといい、もう少しゲストを慮った質問を選んで欲しいものです。
日本は”思いやり”の国なのですから。
(自分でも驚くくらい長くなってしまっているので後編に続きます。)
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