2015NHK杯男子SP 不可能を可能にする男

羽生結弦といえばソチ五輪SPで”101.45”という驚異の脅威の世界記録を叩きだしたことで知られているように、SPのスペシャリストといっていい選手なのですが、昨季2014-15は怪我や病気もあって、SPバラード第1番ト短調で一度もノーミスがなかったのですから、本人もさぞかしじれったい思いをしていたことでしょう。
その悔しさがあったから、バラード第1番ト短調を今年も持ち越したことは間違いありません。
それなのに今季は開幕戦となったB級大会でもミスが出たばかりか、GPS初戦のカナダ大会では4Tが2Tに抜け、3Lz+2Tでザヤックルールに抵触するという痛恨のミス。
これは五輪王者としては恥辱そのものだったでしょうし、トラウマにすらなりかねないミスだったと思います。
ですから、このGPS2戦目となるNHK杯では”いかにSPを乗り越えるか”が、本人の課題であり、我々ファンの注目点であり心配なところでした。
バラード第1番ト短調のジャンプ構成は、前後をイーグルで繋ぐ3A、後半のステップからの4T、そして3Lz+3Tという高難度。
絶対の武器である3Aは余裕があるものの、後半の4Tはこれまでもなかなか決まりませんでしたし、3Lzからのコンビネーションは長い間手こずってきたジャンプ。
この構成の成功率を高めるためにはやはり、4Tを前半に持ってくるのが一番、それが客観的な見方だと思います。

しかし、羽生結弦は違った。
彼が選んだのは、イーグルで繋ぐ4S、4T+3T、後半の技巧的繋ぎからの3Aという超高難度構成。
私もびっくりしました。何をいっているのかわからなかった。
まず、4Sはこのところようやく成功率が上がってきたジャンプですから、それをステップからというのが果たして可能なのか、そして4T+3Tはこれまで公式戦で一度も取り入れたことがないジャンプです。
常識的にいえば、SPの3本のジャンプというのは、そのうち2本をまずまず自信のあるジャンプにして、ストレスのあるジャンプは1本だけにするものです。
それなのにそのうち2本をこれまでにSPで跳んだことのないジャンプにする。しかもそれが4回転ジャンプという最高難度の大技…。
これは勇気ではなく、無謀!
そう謗られても仕方ありません。

その構成変更の理由について羽生結弦本人は、「(SPで4Lz+3Tと4Tを入れている)金博洋の存在や、3Lz+3Tの成功率の低さではなく、2018年五輪を見据えてのこと」と説明していましたけど、私はその3つすべてが理由だと思います。
”赤の女王仮説”ではありませんが、フィギュアのジャンプ構成というのは「ここでいい」と思っていれば、いつの間にか他の選手に追い抜かれているものです。
羽生結弦もジャンプの基礎点で、かつての世界王者P・チャンを破って五輪王者となっただけに、それは重々心得ているはずです。
そして3Lz+3Tの成功率、これは極めて低いといわざるを得ません。ルッツは踏み切りに前傾する癖があるので、セカンドトリプルに繋がりにくいという構造的な欠陥があるといっていいでしょう。
それならば思い切って4回転からのコンビネーションにしてしまえ!というのが本人の気持ちではないでしょうか。
ザヤックルールにしても、新構成だとどう失敗しても100%引っかかりませんしね。

しかし、そういう理由があっても無謀なことにはかわりありません。
なぜコーチが止めないのか、私には理解できませんでした。
日本中が楽しみにしているNHK杯で、そんな無謀な挑戦をしてひどいSPになってしまえば、羽生くんは大きな批判を浴びるはずです。
FSで巻き返して優勝したって、フィギュアファンや国民から「身勝手だ」と批判されるに違いありません。
それは本人も重圧として受け止めていたことでしょう。彼は責任感のある選手です。
それでも羽生結弦は突き進んでいった。

会場の長野市ビッグハットのお客さんもこの羽生くんの挑戦のことはすでに知っています。
そのせいか最終滑走は、水を打った、いや凍り付いたような緊張感に包まれていました。
テレビで観ていても、お客さんが呼吸と瞬きを忘れているのがわかりました。
そして羽生結弦はその静寂を切り裂くように跳んだ!
まずは4S!
着氷を乱しそうになるも、上手くこらえただけでも凄いのに、そこから意地でイーグルに繋げた!
これで加点でもプラス方向になりますし、演技の面でも流れを切らさなかった。
そして次の4T+3T、練習では決めているものの、ここは本番わけが違う、というなかで、完璧なジャンプ!わけもない!
後半の超技巧的入り方の3Aも涼しい顔で決めると、研ぎ澄まされた名刀のようなスピン、繊細で軽やかでしなやかなステップシークエンスで会場を魅了して、光輝くようなバラード第1番ト短調を完遂してくれました。
このSPは高難度ジャンプの前後にも繋ぎが散りばめられていて、まったく隙がないという恐ろしいプログラムです。
振り付けのジェフリー・バトルは、これが人間に可能だと思ってこしらえているのか、一度問いただしてみたいくらい。
それを羽生結弦はほぼ完璧に実現させてみせた。
超人です。いや、もう宇宙人かも知れない。

もちろん、これで自身が持つ世界最高点の更新は間違いありません。
興味はどこまで伸ばすか、という部分だけ。
そして、出てきたスコアは106.33(TES59.44・PCS46.89)!
これを超えられる人間はもういないんじゃないでしょうか。
そう、羽生結弦をのぞいては!

こうなるともう賞賛の言葉も見つかりません、ただただ敬服するのみです。
私は今後、羽生結弦に対して”無謀”を使うのをやめます。
彼は不可能を可能にする男です。
私はもう羽生くんに対しては”期待”しかしません。
みなさんもご一緒に、彼がもたらす興奮と歓喜に酔いしれようじゃありませんか!
人気ブログランキングへ
スポンサーサイト
プロフィール

かつしき

Author:かつしき
FC2ブログへようこそ!

最新記事
カテゴリ
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード