2016世界フィギュア女子FS(後)、新時代と新新時代

(続きです。)
長かった2016世界フィギュア女子FSも、残すはゴールドとワグナーのアメリカ娘のみ。
ボストンのお客さんたちは、そのどちらかがメダル、それももっとも輝くメダルを首にかけることを期待しているに違いありません。何しろアメリカ女子のメダルと優勝は2006年のマイズナー(金)とコーエン(銅)まで遡らなくてはなたないのです。フィギュア大国としてそろそろ我慢がならなくなっていることでしょう。
それにしてもフィギュアの滑走順は抽選のはずですけど、図ったようにホームの2人が残っているのですから、疑いたくなっちゃいますよね…。

そんな状況のなか、まずはSPでイカサマ臭い76.43で首位に立ったグレイシー・ゴールドが大歓声を背に受けてのリンクイン。
しかし、それがプレッシャーになっているのか、ゴールドの表情は緊張で強張っているのが丸わかり。
案の定といいますか、冒頭の3Lz+3Tで大きくバランスを崩してブリッジをするように踏ん張るも、おそらくは転倒扱い。
いつもは簡単な3Loも突っ立つような着氷、盛り上がりたい『火の鳥』ステップでも動きが硬く、鳥と化したしなやかさが出てきません。
そうして緊張感のある2A、綺麗なフライングキャメルで前半を終わらせ、後半冒頭の2A+3T+2Tは噛みしめるように着氷。必死さが伝わってきます。
続いてのエラーが気になる3F+2Tも慎重に降りてほっと一安心、だったのも束の間、後ろ向きスパイラルからのルッツがまさかの2Lzに…。これは終わった…。会場もシーン…。
そんな寂しい空気を浴びてもグレイシーは気持ちを確かに持ちながらコレオをしっかり滑り、3Sも慎重な着氷、切れ味鋭いレイバックスピンを回ると、緊張がちょっと緩んだようなコンビネーションスピンでフィニッシュ。
今回もグレイシーは重圧に負けたのは間違いありません。アメリカでは「オールモストガール」とかいって囁かれることでしょう。
でも、今回のカチコチな演技も必死でしたよ、一生懸命でしたよ、最後まで諦めませんでしたよ。それだけはアメリカのみなさんも褒めてやってください。
(グレイシーの演技を観てメダルを確信したのか、トップ3ルームで踊るポゴリラヤ。あかんあかん、アメリカのみなさんの機嫌を損ねちゃう!お行儀よく!)
そうして出てきたグレイシーのスコアは134.86(TES66.01・PCS6985・減点1)、合計211.29で暫定3位。
なんじゃこりゃ!
ちょい待ってくださいよ。ポゴリラヤは喜んでいるかもしれませんけど、我々日本人は納得しません!どう考えたって宮原さんの方が上でしょうよ!
このFSでもエラーにしか見えない3Fは”!”に留めた上に加点まで付けてるし、GOEとPCSの盛り込みも宮原さんをちょっと上回るように計算しているんですから本当にエゲツナイ。図るのは滑走順くらいにしてください!
ノーミス女王のさとちゃんがなんで台落ちしなきゃいけないのかわけがわかりません!

そんな私の憤りなど知ってか知らずか、細かいことを気にしないアメリカ人がゴールドのインチキ暫定3位に沸き返るなか、最終滑走のアシュリー・ワグナーは集中したいい表情。
そして、しなやかに力強く『ムーランルージュ』をスタートさせると、まずは軽々と2A。これだけで大歓声のアメリカ観客が羨ましい。
腕上げターンで彩ってからの3F+3Tは豪快。ややぐり降りでしたけど、もうものにした感じですね。
2A+2Tでは着氷の流れからフライングシット、コンビネーションスピンに繋げる技術の高さ。
そして後半への繋ぎはフライアウェイしながらの憂いのある芝居でしたけど、こういうところはワグナーの上手さですね。
そんないい流れのまま入った後半冒頭の3Lo+1Lo+3Sはお見事!
しかし、続く3Fはおっとっと。それでもターンからの3Loは軽々跳んで流れは渡しません。
このジャンプの着氷からの流れで入るステップでは情感たぷり(技術はあっさり)、そして男性ヴォーカルが入ると同時に加速した3Lzはやや斜めになりながらも上手く着氷!
もうこれでアメリカ観客は爆発したような大盛り上がり。ワグナーはそれを追い風にし、さらに目力で煽ってスパイラル、最後はY字スピンで熱狂を心地よく楽しみながらのエンディング!
最初から最後までまったく流れが切れず、私も『ムーランルージュ』を心ゆくまで堪能することができました。ブラヴォ!
顔を覆って歓喜にあふれるワグナーへ会場中がスタンディングオベーション。
ホームの世界選手権の最終滑走でこれだけの滑りをするというのは本当に大したものです(ゴールドのときとは違って敗北感…)。
悲願のメダルに手が届くときがついにやってきたか。
楽しみなスコアは142.23(68.45・73.78)でパーソナルベスト、合計215.39もパーソナルベストでなんと2位銀メダルが確定!
トップ3ルームではポゴリラヤがメドベデワの膝に顔を埋めて悔しがっていましたけど、このワグナーの点数はちょっと高すぎるでしょう。いくらホームだからってやりすぎはいけません。
銅で十分だったと思います。それなら文句も出ませんよ。私はワグナーのファンでもありますから、彼女にはもっとすっきりしたメダルが似合うと思います。
しかし、いずれにしろ、悲願のメダルを獲得、本当におめでとう!
(※これが日本開催なら宮原さんが銅メダルか銀メダルだったはずです。ワグナーとの差はホームアドバンテージに他なりません。過去の日本開催では日本選手がいい目を見たこともありますし、ここは仕方ないか…。)

結果、優勝はメドベデワ、2位がワグナー、3位がポゴリラヤ。
全員が初めての世界のメダルということで、表彰台はとても新鮮でした(メドべとポゴが一緒にシェヘラザードポーズを取っていましたけど、ロシア女子は仲いいですね)。
メドベデワは堂々たる内容での世界制覇、ワグナーは何度も跳ね返された末の初メダルで本当に嬉しでしょう。引退しなくて良かったですね。
ポゴリラヤは2年前に手から零れ落ちたメダルをしっかり我が物にしただけではなく、実力的にもメドベデワに肉薄するものを見せてくれました。
3選手とも本当におめでとう!

それにしてもこの2016世界フィギュア女子シングルのレベルの高さはどうでしょう。
上位10人の選手はみなFSで5種トリプルにセカンドトリプル2本という構成なんです。
しかも大きなミスをした選手もほとんどいません。
加えてスピンやステップの技術もしっかりしていましたし、表現面でも磨き上げられている。
勝負を分けたのはジャンプの成功率と全体の完成度でした。ジャンプにほんの少しミスがあるだけで順位ががくっと下がってしまう、そういうギリギリの戦いだったわけです。
優勝したメドベデワだって2位に8点以上の大差を付けていますけど、SPで3Fが詰まってセカンドを付けられず、次の3Loで強引にリカバリーした場面、あそこをミスって出遅れていれば優勝は難しかったと思います。大差に見えても微妙な差なのです。
こういうハイレベルの争いは昨季からその兆候がありましたけど、今季でそれが定まった感じがします。
これこそ”新時代”ですね。
ロシア勢の強さはその新時代を先取りし、早くから国内で熾烈な競争を繰り広げているためだと思われます。
昨季の世界女王トゥクタミシェワや五輪女王ソトニコワ、世界2位になったこともあるリプニツカヤが世界選手権に出られないのですからね。
実は、いまの日本の女子ジュニアもそういうシビアな状況になっています。ちょっとした国内大会のミスで有力選手が国際大会に出られないなんてのは日常茶飯事なんです(長野市で行われた全中フィギュアも凄い争いでした。これだけを観に長野市に来るだけの価値があると思います)。
これは選手には本当に大変なことでしょうけど、日本フィギュアのレベルアップに繋がることは間違いありません。もう少ししたら、シニアもいまのロシア女子のようになっていることでしょう。
また、そういう厳しい新時代だからこそ、ベテランでありながら、毎年技術力を進歩させ、若手に食らいついているワグナーの存在も際立ちます。世界中の中堅・ベテランに勇気を与えているといっても過言ではありません。

この新時代は来季以降もしばらく続き、痺れるようなギリギリの戦いが繰り広げられるはずです。
しかし、遠くない未来、激しい団子争いのなかで、他選手にない武器を装備して頭ひとつ抜け出そうとする選手が必ず出てきます。それが進歩の歴史というものです。
その武器はおそらく”3A”になるでしょう。
いまの5種トリプルで完成度が高いプログラムに3Aを加えた者が”新新時代”の覇者になるわけです。
ただ、私がこう書いてきて、みなさんは「そういう選手、もういるじゃない」とお思いでしょう。
そうです。私もその選手をよく知っています。
浅田真央がソチ五輪シーズンから取り組んでいることがまさにその新新時代の魁なのです。
もちろん、完成度という意味ではまだまだ道半ばです。私もそれはわかっています。
しかし、彼女の理想のフィギュアが時代を先取りしているのは紛れもない真実です。
彼女は未来を滑っているのです。
ただ、そんな浅田さんの現役生活は、ちょっと寂しいことに、もうそんなに長くはありません。
私はそのなかで浅田さんがフィギュアの未来像と理想像を体現することを期待しています。
それこそが彼女がフィギュア界に残す大いなる遺産であり、真の伝説なのです。
浅田真央は来季もその早すぎる新新時代に向かって、孤高の挑戦を続けることでしょう。
今大会を終えた浅田真央は、「思うような演技ができないなかで、結果ではなく、もうちょっと違った考えを持とうかなと思った」と語っていました。
私は来季も浅田真央を楽しみにしています。
結果ではなく、ちょっと違った何かを。
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