『朧月夜』を再認識

4月も下旬に入り、桜の季節もすっかり終わってしまって、ハナミズキが街路を彩っているとはいえ、華やかな春は一段落…、といいたいところですが、北信濃ではいままさに春たけなわなんです。
その主役は”菜の花”。
それも信州ですから、やはり野沢菜の花になります(※菜の花はアブラナ科の花の総称で、種類も色々です)。
とりわけ飯山市は、美しい菜の花畑が点在し、4月下旬から5月上旬ほどは、町中が菜の花で埋め尽くされるようになりますから、本当に壮観なんです。
GWには今年2016年で33回を数える〈菜の花まつり〉していますし、昨年延線された北陸新幹線で、首都圏や北陸から多くのお客さんが訪れるはずです。菜の花畑を背景に走る電車を撮影しようと、飯山線には撮り鉄も集いますしね。

ただ、おそらくまだまだ全国的には飯山市の知名度は低いと思うんです。
PCディスプレイの〈iiyama〉の創業の地といえば、頷く方もいらっしゃるかもしれませんが、それも少数でしょう。
しかし、こういえば、多くの方が「おおー」と感嘆の声を上げはず。

唱歌『朧月夜』の歌詞の舞台。

作詞をした高野辰之先生(1876~1947)は、隣の中野市(豊田村)出身で、飯山市の小学校で教鞭を執っていた時期に、菜の花畑にインスピレーションを得て、『朧月夜』を仕上げたといわれているんです。
高野辰之先生は他にも『故郷』や『日の丸の旗』、『春の小川』や『春が来た』、それに『紅葉』などを作詞した、唱歌の神様のような人物です。もちろん信州が誇る偉人でもあります。
先生の唱歌は、子供の時分に歌いながら、その美しさと抒情性に引き込まれるのはもちろん、大人になって、脳裏に刻み込まれている歌詞を振り返ったときに、さらにその価値を再認識するという、本当に深みのあるものです。『故郷』や『春の小川』なんて涙が出そうになりますよね。

そして『朧月夜』ですが、この詞章ほど計算され尽くされ、完成度の高いものはなかなかお目にかかれません。

菜の花畠に 入日薄れ、
見わたす山の端 霞ふかし。
春風そよふく 空を見れば、
夕月かゝりて にほひ淡し。
里わの火影も、森の色も、
田中の小路を たどる人も、
蛙のなくねも、かねの音も、
さながら霞める 朧月夜。

まずは菜の花畑が夕日に照らされ、輝くような花葉色が静かに色を失ってゆくような情景で視覚に訴え、春風を感じるうちに日が暮れ、菜の花の香りが嗅覚をくすぐり、里の風景を丹念に描写したかと思うと、夜を告げる蛙の声と鐘の音が鳴り響き、最後は朧月が霞む情景で幕を閉じる。
この詞章を読み、歌い、または聞くだけで、春の飯山を旅したような気分になってしまいます。
五感に訴えることで、リアリティをもって、高野辰之の世界がこちらに迫ってくるわけです。
本当に凄い歌詞です。

おそらくこの詞章は与謝蕪村の「菜の花や月は東に日は西に」も創作のベースのひとつになっていると思いますし、五感に訴える言葉の選び方や、歌詞の流れを”序破急”で組み立て、最後に余韻である”序”を残す構成は謡曲の雰囲気そのものです。
つまり、この『朧月夜』は、日本人が長い歴史のなかで培ってきた美意識の延長線上にあるわけです。
高野辰之先生には、それを子供たちが歌う唱歌にすることで、次の世代へと伝承させてゆこうという思いがあったに違いありません。

高野辰之先生の本業というべきは国文学者です。それも芸能史に造詣の深い研究者です。
だからこそ子供でもわかる平易で日常的な詞章のなかに、”伝統”を詰め込むことができたのでしょう。
そういう高い学識と、次世代を育てる使命感が溢れた『朧月夜』。本当に素晴らしいです。
この歌を口ずさみながら春の飯山を歩いたら最高じゃないでしょうか。
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