暑い季節は辛いカレーがいいですね

飲食店の大食いメニューや激辛メニューといえば、若い頃は誰だって挑戦したことがあると思うんですけど、私はそれで一度、とんでもない目にあったことがあるんです。
私が挑戦したのは、京都市のとある喫茶&軽食のお店でした。
そこの激辛カレーは、制限時間内に食べきれば無料になるといいうだけではなく、コーヒーチケット10枚がついてくるという、なかなかお得な挑戦メニューだったのですが、その辛さというのが通常の50倍の量のスパイスを用いるという常軌を逸したものだったわけです。
私も辛さには多少の自信がありましたし、失敗しても1500円を払えばいいだけだったので、「いっちょやってみるか!」と思い立ったのですが、一番の難題は、”他人の目”でした。
50倍カレーともなれば、汗と鼻水が飛び散る阿鼻叫喚が予想され、それを誰かに見られるというということが当時の私には抵抗があったのです。

そこで店じまい間際の深夜帯を狙って店のドアを潜り、他のお客さんがいないのを確認した私は、カウンターの隅に座ると、メニューを見るふりをしてから、おもむろに「激辛カレーをください」と注文しました。
店のおばちゃんはちょっと戸惑った気配でした。
この店は学生のお客さんが多く、激辛への挑戦も、普通ならば友達同士でやってきて、ワイワイいいながらやるわけです。
ひと目を盗んでの挑戦はかなり不自然だったことでしょう。

しかし、注文がくれば仕方ありません。
おばちゃんは、「辛いけど大丈夫?」と一声かけ、私が頷くと、コンロの前に立ちました。
そして片手鍋にベースとなるカレーソースを注いだかと思うと、そこにスパイスをこれでもかと投入していったのです。
鍋が沸くにつれて、スパイスの香りが店中を支配し、辛いような苦いような煙が立ち込めると、私の鼻と喉は早くもひりひりし始め、目にも涙が溜まってきました。
おばちゃんの後ろ姿が、魔女のそれに見えてきた…。

そしてカウンターに置かれたカレーの色のなんともどす黒いこと。
色んな絵の具を混ぜてゆくと、最後には黒になるといいますが、スパイスも同じことなのですね。
そして最初の一口。
思いのほか辛くありません。
ただ、苦いんです。スパイスが口のなかでじゃりじゃりして、薬のような味が広がってゆきます。
そして痺れるような熱さ。
食道を通って胃のなかに落ちた塊が、「オレはここにいる!」とでも叫んでいるように胃がジンジンします。
その熱は熾火のように消えることはなく、体中の毛穴が開いたようになって、そこから汗が噴き出したのはいうまでもありません。
一刻も早く消化しなければ大変なことになる!

しかし、ここで大事なことがあります。
激辛への挑戦では決して水を飲んではなりません。
一口飲んだらもう辛さに抵抗はできないんです。
口のなかがマヒしたようになっているうちに、かきこむしかないんです!

私は平静を装いながらスプーンを動かしました。
中盤からは目が回ったようになって、平衡感覚が失われてくるんです。
体全体、いや全ての臓器が脈打ったようになってくる感覚もいままでに経験がありません。
体が「もう嫌だ!」と抵抗しているのは確かでした。
それでも私は挑戦の方を優先させました。
これはおばちゃんと私、スパイスと私の戦いなんです。

そうしてお皿が綺麗に空になったとき、制限時間はまだ半分ほども残っていたでしょうか。
私はお水を一口飲んだあと、「美味しかったです。ごちそうさまでした」とすまし顔でおばちゃんに声をかけました。
おばちゃんの「おめでとう」には呆れたような、ちょっと悔しそうなニュアンスが籠っていたのはいうまでもありません。
するとおばちゃんは、お会計をするかわりにポラロイドカメラを取り出し、私のことを写真に収めました。
店の壁には達成者たちの写真が貼られているのです。
そこに加わることになった写真を見せてもらうと、そこに映っている私は決してすまし顔ではなく、唇を真っ赤に腫らし、目を充血させた、異様な風体でした。
やはり、ひとりで行って正解でしたね…。

勝利の余韻に浸りながらの帰り道、そのときの夜風の心地よさは忘れられません。
しかし家に帰ってもなお、食道や胃袋が焼けるように熱かったのはもちろん、心臓や体中の血管がばくばくと脈打っていましたし、肌もひりひりして、全身が自分のものではないみたいなんです。
これはやばい、と感じた私は、まず牛乳をたらふく飲み、冷たいシャワーを浴びました。
しかし、全身の熱をいっこうに収まりません。
熱が籠って発散されないような感じなんです。
これは本当におかしい、何なんだこれは。
私は自分の体に起こっている未知の現象に戸惑いました。
そして、ふと気づいたんです。

お店では滝のように流れていた汗が、一滴も出ていない!
こんなことがあるのか…。
人間は汗で体温を調節する生き物です。
ちなみに他の動物の多くは呼吸で体温を調節します。舌や口腔や喉の唾液を蒸発させることで体温を下げようとするわけです。走ったあとの犬が激しく「はあはあ」するのはそのためです。
ですから、汗の出ない私もかなり「はあはあ」していました。
そして水風呂に入ったり、タオルを使って体を濡らしたりと、体温を無理やり調整したわけです。
この状態は2日ほど続きました。
そうして汗が出始めたとき、汗って本当に素晴らしいものだと思いましたよ。
匂いやベタつきの原因として嫌われている汗ですが、出なくなったらほんと大変なんです。感謝しましょう。

しかし、このようなことがあっても、私は辛いカレーが大好きです。
暑い季節になると特に食べたくなります。
減退しがちな食欲を刺激してれくますし、汗もかかせてくれて、かえって気持ちのいいものです。
もちろん、”適切な辛さ”でなくてはなりませんけどね!
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