生前退位の衝撃から冷静になる

昨日7月13日夜にテレビ各局が伝えた「天皇陛下、生前退位のご意向」は、日本国民すべてにある種のショックを与えたと思うのですけど、私もそのひとりでした。
それは陛下のご体調がそんなにも芳しくないのかという不安な思い、そして82歳というご高齢の陛下にご無理をさせてきてしまったという後ろめたさ、それらがないまぜになったものだと思います。
陛下は昨年(平成27年)のお誕生日のお言葉のなかで、「私はこの誕生日で82になります。年齢というものを感じることも多くなり、行事の時に間違えることもありました。したがって、一つ一つの行事に注意深く臨むことによって、少しでもそのようなことのないようにしていくつもりです」との率直な思いを述べられています。
その責任感の大きさには胸を打たれるばかりですが、ご公務の大変さと年齢を考え合わせれば、”生前退位”というお考えも頷けるというものです。
私も本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになりました…。

しかし、昨日の深夜になると、この陛下のご意向に関して、大きな動きがあって、なんと宮内庁がそれを否定するコメントを発表したのです。
「陛下は憲法上のお立場から、皇室典範や皇室の制度に関する発言は差し控えてこられた」という内容を次長と長官が繰り返すという強い否定の態度でした。
いわれてみればその通りです。
”生前退位”という制度は皇室典範にはないので、これを実行に移すためには法改正が必要になります。
そして、その発端が”陛下のご意向”となれば、”陛下が法律を変えさせた”ということになってしまい、”象徴天皇”という立場を逸脱することになりかねません。
そんなことを国民と憲法に寄り添ってこられた陛下がなさるわけがないのです。
私は報道を鵜呑みにした自分を恥じています。

では、なぜ「生前退位のご意向」などという報道が一斉になされたのか。
どうやら少し前から政府による皇室典範改正の準備作業が進められているようなんです。
これはおそらく陛下のご体調やお心を斟酌した政府が専門的な人間を集めるなかで、マスコミがその動きを察知しての報道ということなのでしょうけど、先走り過ぎてしまったかもしれません。まずは宮内庁に取材をするべきでした。

それにしても”生前退位”というのは難しい問題です。
皇室典範には、明治憲法のときも生前退位はありません。ようするに天皇というのは生きている限り天皇だということになっているわけです。
しかし、天皇といえども肉体を持った人間ですから公務や儀式を考えれば無理なことも多いと思うんです。
私も、明治の日本人は天皇に対して厳しすぎる!と少々腹が立ったくらいです。

ただ、昨日からずっとこのことを考えるなかで、私のなかでも少しずつ変化が起こっています。
まず、生前退位という制度を導入するとして、誰が退位の決断をするのか、というのはとても重要で、とてつもなく難しい問題となってしまいます。
それを”陛下本人”とするにしても、それが本当に陛下の意思なのかどうかわかりませんし、誰かに強要されたり、そそのかされたり、誘導されたりする恐れもあります。
また、天皇の意思であったとしても、個人的な判断で辞められてしまっては、日本全体に大きな混乱をもたらす可能性があります(天皇自身が退位を政治利用する危険性も)。
では、国民の代表たる”国会”でこれを判断するのか。
それはいくらなんでも不敬すぎますし、政治的に利用される恐れもあると思うんです。妙な政党が一時的に多数を占めていたら大変ですしね…。
また、国民投票というのも、裁判やリコールみたいで、皇室と国民の間の関係をおかしくしかねませんから、避けた方がいいでしょう。
そうなるとやはり”誰か”が決めるというのは適さないことになると思うんです。
ひょっとすると明治の日本人はよくよく考えた末に、”生きている限り天皇”という決まりにしたのかもしれませんね。

そのように生前退位のタイミングを”誰か”が決めるとなると難しい問題になるわけですが、そうならないひとつの方法として、”年齢で区切る”という考え方もあるかもしれません。
たとえば皇室典範でも、「年齢十五年以上の内親王、王及び女王は、その意思に基き、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる。」(第十一条)や「天皇、皇太子及び皇太孫の成年は、十八年とする。」(第二十二条)という条項があるので、年齢で区切ることはそんなにおかしなことではないと思うんです。
ちなみにオランダの王位は、制度ではありませんが、王が70代になると退位するのが慣例とのことです。

というわけで、ここまで生前退位を前提に書き進めてきましたが、もちろん皇室典範を変えないという選択もあります。
現行でも”摂政”という仕組みがあるのですから、それを上手く活用して天皇の年齢や体調の問題に対応するという方法もあるわけです。
ただ、今上陛下は”天皇である限り公務に全力を尽くす”という強い信念を言葉と行動でお示しになっておられるので、それはおそらくご納得なさらないでしょう。
そこで”生前退位”という話に戻ってしまうわけですが、我々国民はそれを考える際に、陛下を一個の人間ではなく、象徴天皇として見るべきだと私は思います。
今上陛下にとってどの方法が最もよいのだろう、と考えるのではなく、これからもずっと続いてゆく日本国の天皇にとって一番よい制度を模索すべきなのです。
我々は感傷的になってはいけません。
陛下だって自分の思いを押し隠していらっしゃるではありませんか。
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