吉田沙保里は敗れてもなお勝者

前日の3階級が全て金メダルという女子レスリングですが、19日(日本時間)にはいよいよ52キロ級に吉田沙保里が登場。
伊調馨に続く4連覇の快挙はなるか、いや絶対になる!という国民の期待を背にいざ出陣!

昨年の全日本選手権以降、8ヶ月間、試合に出ず、リオ五輪に集中することを選んだ吉田ですから、実戦感覚にはやや不安が残るかと思われたものの、2回戦、準々決勝、準決勝と、守勢に回る相手から、一瞬の隙をついてポイントを奪い、ディフェンスも鉄壁で、ここまで1Pも失わないという完璧な内容。
決勝戦を前に、私などは金メダルを確信していました。
唯一、不安のようなものがあるとすれば、攻めの迫力のなさくらいだったでしょうか。返し技を軽快して無理攻めはしていない印象でした。

その決勝の相手は、ここ何年も吉田と国際大会の決勝で戦ってきたソフィア・マットソン(スウェーデン)ではなく、ヘレン・マルーリス(アメリカ)。
マルーリスは55キロ級を主戦場にしている選手で、昨年の世界女王ですが、この階級は五輪にないので53キロ級に落としての出場です。過去の世界選手権(55キロ級)では吉田が一方的に勝っているようですけど、ちょっと不気味。準決勝でもマットソンに8-0で完勝していますしね…。
まあ、しかし吉田が負けるはずはありません。私などはそういう画が想像できない。私たち日本人は吉田が負けた記憶をほぼ持たないんですから当たり前です。
なんといっても吉田は世界選手権と五輪ではいまだ負けなしという勝負強さです。勝つに決まってますよ!

そうして始まった第1ピリオドでは、吉田のタックルを警戒して低く構えるマルーリスに対して、吉田も強引には攻めず、相手への消極的警告からの1Pを獲得すると、両者膠着したままインターバルへ。
第1ピリオドでは一度だけ吉田が片足タックルを仕掛けるもポイントには至らない場面がありましたけど、あそこは惜しかった。
マルーリスがカウンター狙いだったので深く攻めるとリスクがあると思ったんでしょうね。

第2ピリオドに入ってもマルーリスは吉田の手指を掴むようにしてタックルを防ぐ戦法を継続。
すると開始25秒、その焦らしに堪えられなくなったように前に出た吉田が強引が首投げ、しかし、それがすっぽ抜けるとバックに回られてまさかの2失点。
リードをしたマルーリスは、よりディフェンスを堅固にし、吉田にタックルを許しません。
時間が徐々に削られてゆくなか、スタンドにいた応援団も、遠く日本でテレビを観ている我々も、気が狂わんばかりに吉田に声援を送るしかなかったわけですけど、残り1分を切ったところで吉田が強引に仕掛けたところを返されて、絶望感のある2失点。これでポイントは1-4に…。

残りわずかな時間、吉田はどうにかタックルに入ろうとしますが、万全な吉田対策をしてきたマルーリスに付け入る隙はなく、試合終了のブザーが残酷に鳴り響きました。
信じられない、いや信じたくない敗戦。
リオの会場に陣取る応援団が呆然とするなか、マットに泣き伏す吉田沙保里。
ああ、これは現実なんだ。

確かにマルーリスは強かった、吉田対策も万全だった。
しかし、そういう相手に勝ってきたからこその絶対女王なわけです。
この決勝の敗因を探すとするならば、それはやはり”負けられない”という思いが強すぎたのだと思います。
決勝だけではなく、初戦から吉田の攻めには積極性が見えませんでした。
あと一歩、あと半歩、踏み込めないところに、怯えのようなものが見えたわけです。

今大会の吉田は4連覇という偉業に挑むにも関わらず、女子レスリングチームのリーダー的存在であり、日本選手団の団長という要職まで快く引き受けていました。
試合後に吉田は、「いろいろな人に金メダルを取って見せると約束していたので、申し訳ありません。日本選手団の主将として役目を果たせなかったことがとても悔しいです。」と涙を流しながら謝っていましたけど、我々は彼女にあまりにも多くのものを背負わせすぎたのかもしれません。
しかも前日、日本女子は3階級で金メダルを獲得していたので、それもプレッシャーになっていたと思います。

ただ、この銀メダルで、吉田沙保里の伝説が色あせることは決してありません。
数々の栄光はもちろんですし、吉田に憧れた若い選手たちが今回、金メダルを量産したことも吉田沙保里の功績です。
吉田が負けたとき、妹分の登坂絵莉が子供のように泣きじゃくっていた姿が吉田の存在をよく表しています。
吉田の父のジュニアクラブ出身の土性沙羅の勝利への執念も吉田譲りでしょう。
そして、吉田の敗戦のすぐあと登場した、63キロ級の川井梨紗子は、全盛期の吉田を彷彿をさせるようなノーモーションタックルと、相手の動きを予測した無駄のない動きで、見事に金メダルを獲得しました(3選手とも大学の後輩)。
吉田沙保里の存在は女子レスリングの未来を照らしているのです。
また、これは何も日本だけに留まりません。
今回、吉田に勝ったマルーリスはアテネ五輪の吉田を観て、より一層レスリングにのめり込んでいったといいますし、吉田への憧れと敬意を公言している選手です。

確かに吉田沙保里は4連覇を逃しました。
しかし、彼女が勝者であることは変わりません。
彼女は自分自身が育てた女子レスリングに負けたのです。
試合後、吉田はマルーリスや日本の後輩たちを称えることを忘れませんでした。

吉田沙保里は、日本の誇りであり、宝です。
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