第26回安曇野能は蝋燭能に

昨日8月20日(2016年)、今年で26回目を数えるはずだった安曇野薪能ですが、いつもの会場の控室になっている公民館が改装工事に入るとのことで、今年は場所を豊科公民館大ホールに移しての蝋燭能となりました。
最近立て替えたというホールは木材を多くしようしているせいか、いい香りがして、備え付けの座席もいい具合で、ほどよい傾斜のせいで舞台も観やすかったです。クーラーも効いているので、龍門淵公演の蒸し暑さに比べれば、快適さにはかなりの差が…。
でもやっぱり安曇野の能は薪能でなくちゃ!

地元の子供たちの発表会のあと、午後3時半から安曇野市長の挨拶が始まり、そこからはいよいよ安曇野能の開演です。
電気を使った蝋燭の光(消防法の関係でしょう)が揺れるなか登場したのは、この能会の主宰である青木道喜先生のご子息・真由人くん(小6)。
昨年の能楽『花月』で衝撃を与えてくれた彼ですが、今年の舞囃子『天鼓』も素晴らしかった。
謡も舞も稽古がよくできているというだけではなく、能に対する積極的、能動的姿勢が舞台によく表れていて、自分なりに『天鼓』と向き合っているのがよくわかります。普通これくらいの年齢だと”やらされている感”が出るものですが、この少年には微塵もそれがない。もはや子方に使えないと思われるほどしっかりした能役者です。
また、舞台の上の真由人くんは、声や舞姿が凛としているだけではなく、物怖じしている気配がまったっくありません。
ロビーを歩いているのを見かけると普通の小6なのですが、一回りも二回りも舞台の上では大きく見えるんです。
スター性を感じる少年ということができるでしょう。
将来への楽しみがまた膨らみました!

続いては青木道喜先生の能、『融』酌乃舞。
『融』は前場が割と重たいので、薪能にはあまり向きませんし、あまり能楽を観たことがないひとにとっては退屈な曲かもしれません(第10回のときの『融』は半能)。
ですけど、安曇野での能は今年で26回目を数えるので観客もすっかり能楽に慣れていますし、今年はホールでの蝋燭能ということで、青木先生は思い切って『融』を選んだのでしょう。
そして、その選択は、大成功だったと思います。
前場の昔語りや風景を見せる謡に観客はじっと聞き入り、とてもいい雰囲気でした。
青木先生はもちろん、ワキの宝生欣哉先生、西村高夫先生が地頭を務めた地謡も高い緊張感と集中力を持続させ、私もぐいぐい引き込まれました。
そして後場は鮮やかな装束へと変じた融大臣の遊楽の舞。
しみじみとした前場もよかったですけど、そこから舞台をぱっと明るくさせる青木先生のエネルギーも素晴らしかった。
能楽は動きの少ない芸能ですけど、足をひとつ前に進めること、体の向きを少し変えることで多くのことを表現せねばなりません。
そして青木道喜というシテ方は、それが本当に巧みです。
『融』のような曲ではそれが大いに堪能できると同時に、その技術が先生のなかに染み込んでいることに、戦慄すら覚えました。
これぞ伝統芸能の凄味ですね。

安曇野能の看板のひとつといえば野村萬先生の狂言ですが、今年は『鐘の音』の演じるとのことで、私はちょっとびっくり。
この狂言はほとんどの部分をシテが演じるので、昭和5年生まれの萬先生にはかなりきついはず。
ところが、そんな私の心配などよそに、萬先生は例年通りの溌剌としたご様子。
相変わらず謡(セリフ)が明瞭ですし、後半の舞も素晴らしかった。
ここは自分で謡を謡いながら舞うので、技術的にも体力的にも簡単じゃないと思うんですけど、軽々演じられていたのはさすがとしかいいようがありません。
いやあ、やっぱり超人です。
私は拍手をしながら、胸が熱くなってきました。

最後の能『紅葉狩』は、鬼揃の小書きがついて、舞台狭しと立ち方が並びます。
前場で美しい上臈たちが謡を謡っているだけで、観客は魅了されていました。
後場になって、その上臈たちが唐織を頭から被り、腰を屈めて舞台に入ってくると、クーラーのせいだけではなく、ホールがちょっとヒンヤリした気がしました。
そして一斉に唐織を脱ぎ捨てた下にあるのは、恐ろしい般若の面。
蝋燭能ということで、恐ろしさが際立ち、会場から悲鳴が上がりそうな迫力でした。
そこからは鬼女と化した上臈たちと平維茂(ワキ)による戦いです。
しなやかに舞い襲う片山九郎右衛門先生と、厳つい顔の宝生欣哉先生の対決は、素晴らしい迫力でした。
『紅葉狩』は信州が舞台なので、退治されてしまう鬼女たちにはちょっと同情しちゃいましたけど、ワキがやられる能はないので仕方ありません。
それにしても壮観な舞台でした!

というわけで、今年も超一流の先生方の舞台を心ゆくまで楽しませていただいて、大満足です。
そういえば私もホール(能楽堂)での能は久しぶりだったんですけど、やはり集中して観ることができますね。
薪能の雰囲気も好きですけど、たまにはこれもいいものです(能楽堂にも行きたいです)。
そんな安曇野能だったんですけど、最後に地謡が千秋楽を謡うのを聞いていて、来る東京五輪の開会セレモニーで謡曲を披露したら面白いんじゃないかと思いました。
全国各流派から何千人か集め、それがマイクを使わずに謡を謡ったらすごい迫力になるはずです。
欧州サッカーのサポーターたちのチャントにも負けないはずです。
関係者のみなさん、ぜひご検討を!
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