信州大王イワナを誠実に

ひょっとすると全国ニュースでも報じていたかもしれませんが、私の住む信州では、昨日(9月1日)今日と、〈信州大王イワナ〉なるブランド魚が初出荷を迎えたことが大きな話題になっていました。

長野県水産試験場のHPを見ると、この信州大王イワナはいわゆる”全雌三倍体”で、染色体を操作することによって、通常のイワナと同じように飼育しながらも、よりも成長が早い上に、成熟(老化といってもいいかも)せず、体だけがどんどん大きくなるという、食用としては夢のような魚なんです(わかりやすいイメージとしてはヤマメが海にいって巨大なサクラマスになったような感じでしょうか)。
この全雌三倍体という技術はかなり難しいものらしく、イワナでこれを実現させたのは宮城県(平成14年に初成功)と長野県だけというのですから、水産試験場のみなさんも本当によくがんばったと思います。ニジマスとブラウントラウトを交配した〈信州サーモン〉に続いての大仕事ということができるでしょう。
”海なし県”の長野県でも、これからは旅館やホテルの食事で、”地元産の魚”をどんどん提供することができるというものです。
いやあ、よかったよかった。

…と、手放しで喜びたいところなんですけど、信州サーモンも信州大王イワナも、”高級ブランド魚”にして売り出してゆくには、ひとつだけ大きな欠点があるんです。
それは一代雑種の信州サーモンも、全雌三倍体である信州大王イワナも、”生殖能力がない”ということです。
両者とも卵は試験場で作るので、生産の現場においては生殖能力などは必要ありませんし、それと引き換えに味や肉付きがよくなる品種なのだから、それはそれでいいじゃないかと考えてしまいますが、生殖能力がないとなれば、どうしても”婚礼の料理”には出しにくいことになってしまいます。

みなさんご存知のように、日本の婚礼の料理には縁起物というのがあります。
そのなかでも必ずといっていいほど献立にある数の子は、”子孫繁栄”を意味しているわけです。
信州サーモンや大王イワナはそれと真逆なので、婚礼の料理として敬遠するひともいるはずです。実際、私も披露宴の料理から信州サーモンを外したひとを知っています。

信州サーモンも大王イワナも、稚魚を作るためのコストは通常のものよりもかかるわけですし、飼育期間も通常のものよりも長くなりますから、商品になった際の価格もやはりお高くなっています。カテゴリーでいったら、”高級魚”ということになるでしょう。
高級食材というのは、味や見た目の良さだけではなく、そのブランド力でもって、高い価格を納得させるものです。
そしてそのブランド力が最も威力を発揮する場というのは、”晴れの日”なわけです。

長野県といえば、その美しい自然から、軽井沢に代表されるように、県外の方からも結婚式を挙げる場所として選んでいただいています。
その披露宴の食事に、しれっと信州サーモンが出されていることに、私は度々申し訳ない気持ちになっているのです。
このサーモンが一代雑種であることをご存知の方はそう多くはないでしょうから、騙し討ちといってもいいかもしれません。
ホテルやレストランの良心を疑います。
どうしても魚を使いたいというなら、信州の名物でもある鯉を使えばいいんです。
鯉は伝統的にも縁起物です。
信州サーモンと大王イワナは、より生産コストを下げて、単純に美味しい魚として、晴れの日以外の場所で提供されれば何の問題もありません。

私が今回の記事を書いてしまったことは、信州サーモンや大王イワナのブランド化に水を差す行為といっていいでしょう。
関係者の努力を踏みにじっているといってもいいかもしれません。
しかし、信州人の美徳のひとつは”誠実さ”です。
たとえ、それがどんなに虚しい言葉だろうと、誰もが正直でない世の中だとしても、私が信州人に求めたいのはそれなんです。
長い目で見れば、それこそが信州のブランド力になるんです。
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