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2016GPSスケートカナダ、男子シングル 勝者なき大会

2016GPSスケートカナダは、昨季に続いて羽生結弦×パトリック・チャンの対決と相成りましたが、日本のメディアの注目はそこではなく、羽生結弦の”4Lo”に集まっていました。
羽生結弦がこの新技も含めて、SPとFSで合わせて6本の4回転を成功させ、自身が持つ世界最高点を更新するかどうか、羽生結弦の敵は羽生結弦というわけです。
しかし、この大会は、4回転が持つ魅力と、裏側にあるリスクが明らかになったといわざるを得ません。
というわけで、4人の選手をピックアップして大会を振り返ってみたいと思います。

日本選手は羽生結弦だけではないところを見せたい無良崇人のSPは丁髷姿の『ファルーカ』。男性主体のフラメンコです。
冒頭の4Tはステップアウトしてセカンドが付けられずも、次の3Aは彼らしい大きな跳躍、床を大きく鳴らしてからの、後半3Lz+3Tはナイスリカバリー。
しかし、キャメルスピンのあとのステップは、男性らしさを意識し過ぎたのか、拍子に合わせて力強くステップを踏むだけで、要素がかなりシンプルだったのでレベルが心配。
最後はコンビネーションスピンからタン!タン!と床を踏んでのフラメンコフィニッシュ。
SPは81.24(TES41.60・PCS39.64)。
プログラムのコンセプトはわかりやすかったものの、ステップやスピンのレベルを取りこぼしてスコアはあまり伸びませんでした。
しかし、SPは2位という好位置に付け、表彰台は十分に射程圏内です。
そうして迎えたFS『ピアノ協奏曲第2番』でしたけど、4Tのお手つきステップアウトでスタートすると、次の4Tも着氷を乱してコンボならず(繰り返し減点)。
それでもでっかい3Aを決めて、ステップはSPと違って体を大きく使えていました。
そして丁寧なキャメルから勢いのある助走で、後半冒頭は今季から挑戦する4S!…でしたけど、完全に回転が足りないお手つき着氷(ダウングレード)。
続く3A+3Tもセカンドで体が開いて回転不足のステップアウト、3Loとシットを挟んだ3F(エラー)は着氷するも、3Lzは転倒と取られてもおかしなくないステップアウト。
後半は完全にへろへろで、コレオも疲れた体に鞭うつようにして何とか滑り切り、青色吐息のコンビネーションスピンでぐったりフィニッシュ。
ジャンプミスが目立って、どういうプログラムなのかよくわかりませんでした。
FSは140.89(62.71・7818)、合計222.13で8位にとどまりました。
このFSの無良くんは、ジャンプだけではなく、滑り全体に精彩を欠いていた印象でしたけど、報道によると朝の公式練習で左足を捻挫していたとのことです。どこのジャンプで怪我をしたかはよくわかりませんが、4S導入もその一因と考えるのが自然です。
FSでの4回転3本が当たり前になっている時代とはいえ、無良くんは足首の捻挫が癖のようになっているのですから、あまり無理をしないで欲しいかも…。

複数種類の4回転といえば、かつてはこのひと、ケヴィン・レイノルズ(カナダ)の代名詞でしたけど、そんな彼もここ2シーズンは怪我のため、欠場も多く、満足な状態ではありませんでした。
その間に、複数種類の4回転が珍しいものではなくなっていますけど、先駆者としての意地が見たい。
SPの冒頭は4Sが回転不足(UR)気味ながら+3Tで着氷、続く4Tも詰まりながらも根性で立ちました!
3Aはしっかり決めて、長身を持て余したキャメル、ステップでは『Puutarhautuminen』を楽し気に。ここの演技は長い手足が生きます。
最後は長身が映えるアップライトスピンで、観客の温かい拍手を浴びて満足げな表情。
SPは80.57(42.64・37.93)で3位。
スケートにスピードがないのが気になりましたけど、そこが改善されてゆけば、演技も光ってくるでしょうし、ジャンプの回転不足も少なくなってくるはずです。
FSでは冒頭の4Sを詰まりながらも着氷、4T+3Tも似た感じ、4Sは残念ながら転倒でコンボならず(繰り返し減点)。
キャメルとステップは丁寧かつ繊細に。あまり滑りませんけど、『グランドピアノ 狙われた黒鍵』という意欲は感じます。
体力が心配な後半も4Tを降りて会場をどよめかせると、3A、3Lz+2T、3S+3Loを気持ちで揃えて、スピンを挟んでの3Sも無事着氷。
喝采を浴びるコレオを滑り、コンビネーションスピンで演技をまとめたケヴィンは拳を突き出ながら吠えた!
やっと戻ってきましたね、おかえり!
FSは164.49(87.07・7842・減点1)、合計245.06。3位で表彰台、おめでとう!
いまだに少年のような風貌のケヴィン・レイノルズも今年で26歳。現役の時間はそう長く残されているわけではありません。
大きな怪我をせずに無事にその時間を過ごして欲しいと願うばかりです。
…それと裏腹に4Loへの挑戦も期待しちゃっていますけどね!

羽生結弦のSPは『Let's Go Crazy』で、衣装もプリンスのそれを模しているようでしたけど、往年の王子様アイドルにしか見えないのですからさすが羽生結弦、氷上のプリンス!
その冒頭は注目の4Lo、しかもイーグルから直ちに跳んだ!…のですけど途中でほどけて前向き着氷(ダウングレード)。ちょっと力んじゃいましたかね。
こうなると続く4Sが大切になるものの、そこも3Sに抜けて、しかもコンボにならないという痛恨すぎるミス。
しかし、柔らかいキャメルスピンで気持ちを整えると、音楽に乗ってひとつ踊ってから入った後半は、天駆けるようなカウンター3A!これは羽生結弦しか跳べないジャンプ!
そうして勢いを取り戻すと、技巧的なシットスピン、ステップではやや乗り切れないものの、最後の(エア)エレキギターを抱えたハイドロで会場を沸かせると、ギターの高鳴りに合わせたコンビネーションスピンでフィニッシュ。
しかし、ジャンプのミスに本人はがっくり。キスクラでもやさぐれていました。
いいところがあまりないような感じではありましたけど、昨季に比べて下半身が強化されたのか、スケーティングが力強くなっていたのは注目ですね。
SPは79.65(35.48・44.17)で4位。
こんなにもSPでミスが出ると普通は優勝も難しくなるものですが、羽生結弦のFSはそれを跳ね返すだけのパワーがある。
そんな期待とともにカナダの会場には日の丸が翻り、FS『Hope & Legacy』が始まります。
しかし、冒頭の4Loはダウングレード気味の転倒、それでも4Sをクリーンに決めるのはさすが。
男性らしからぬビールマンスピンで観客を驚かせ、ステップでは軽やかに美しく、そのままの流れで3Fもさらりと。
そして勝負の後半、集中した助走からの4S、のはずでしたけど2S+3Tに、嫌な雰囲気のなかの4Tはなんとか立ってくれて一安心。ミスを繰り返さなかったことはSPからの進歩。
続く3A+タノ2T、3A+1Lo+3Sは鮮やかに決め、深くえぐるようなシットスピン、得意のハイドロで入ったコレオ、イナバウアーからの3Lzもきっちり、最後のコンビネーションスピンではややふらつくも、体力面も向上したのか、失速するような感じはありませんでした。
4回転のミスは悔しかったですけど、GPS初戦ならこんなものでしょう。
このFSも、ひとつの川の流れのようなイメージのプログラムで、途切れるところもありませんでしたし、そこは良かったと思います。
FSは183.41(96.29・88.12・減点1)、合計263.06。
昨季も初戦のスケートカナダはミスが出て惜敗したものの、その次からは世界最高点を出しまくったのですから、今季もそれを期待しましょう!

SPのパトリック・チャンは美しいスケートで一瞬にしてリンクを自分のフィールドに変えると、4T+3Tをしっかり決め、苦手の3Aは転倒するも、素早く立ち上がってのスピン、ステップではつるつると正確なスケートで、観ている側の心も解放してゆくようでした。上半身の使い方もどんどん柔らかくなっていますし、表現者としては常に進歩し続けています。
後半の3Lzはやや踏ん張りながらも着氷、どっしりとしたキャメルを挟み、飛翔感じのある滑りで『ブラックバード』を彩ると、地上に降り立つようなコンビネーションスピンでフィニッシュ。
ビートルズの曲をアレンジして作ったちょっと難解なプログラムですけど、チャンが滑るとひとつの名曲のようになるのですから、本当に素晴らしいスケーターです。観ているひとに解放感や飛翔感を与えるというのは誰もができることではありません。彼の価値を再認識させるプログラムだといってもいいでしょう。
ただ、今季も3Aには苦しみそうです。ここをどうにかしなければかつての”絶対感”は取り戻せないでしょうね…。
SPは90.56(46.06・45.50)の1位。
回転が心配だった3AにURがついていませんでしたし、後半の3LzもGOEがプラス評価だったので思ったより点は伸びました。このリードがあれば、羽生結弦から逃げ切れるかも。
そんなFSでは4T+3Tを軽々と決め、ディープエッジで魅せてからの3Aも立った!
そして今季から導入する注目の4S!…でしたけどUR気味の転倒。回転途中で降りてきた感じでしたね。
それでも転倒は慣れっこなので気にすることなくパワー溢れるキャメル、惚れ惚れするようなスケーティングと柔らかい股関節の動きでコレオを芸術の域に高め、後半冒頭は4T!…のような勢いの3T。
これでちょっと嫌な雰囲気になりましたけど、勝負のカギを握る3Aには手つきながら+2Tでの着氷。これは大きい。
しかし、勝負を決めたいジャンプパートで、3Loは難なく決めたものの、そこから2Lz+2T+2Lo、2Fという信じられないミスの連発(ソチ五輪を思い出しました)。
シットを挟んでのステップでもちょっと足にきていたのかターンの制御に苦心し、コンビネーションスピンで演技を終えた『A Journey』でしたけど、思いがけず厳しい旅路でしたね。
そうしてチャンの優勝を願うカナダ観客が固唾を呑んで見守るなか、出てきたスコアは176.39(86.27・91.12・減点1)、合計266.95!まるで調整したかのように羽生結弦を振り切った!
日本や中立地だったら羽生結弦が勝っていたような気もしますけど、まあスケートカナダなので、大会が盛り上がるためにはこれで
いいんじゃないでしょうか(少々投げやり)。

なんといいますか、この2016スケートカナダ男子シングルは、”勝者なき大会”といった印象でした。
ケヴィンの復活と、昨季のジュニア王者ダニエル・サモーヒン(イスラエル)が若者らしい猪突猛進の演技をしたことくらいしか見所がなかったといっていいでしょう。
また、この大会は4回転の怖さを考えさせられる大会でもありました。怪我にはくれぐれも注意して欲しいものです。
選手のみんなはファンの宝物なのですから。
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