時代と村上佳菜子

昨日4月23日(2017年)、姉貴分である浅田真央に殉じるようにして引退発表をした村上佳菜子さんですが、報道陣に語った「すべてにおいて限界だった」という言葉は、心技体のすべてという意味なだけにとても重たいものでした。

ここ3シーズンの村上さんは国際大会や全日本でも目立った活躍がなかっただけではなく、まとまった演技をすることも難しくなっていました。
そこに下の世代からの突き上げがあり、日本国内での序列も徐々に下がっていったというわけです。
その不調の原因としては怪我もあったでしょうし、体型変化もあったと思いますけど(94年11月生まれ)、何よりもまず、いまの若手たちに比べて”ジャンプの種類”が少なかったことが大きかったはずです。
若手たちが4~5種類のトリプルジャンプを安定的に繰り出すのに対し、村上さんは不安定な4種類でずっと戦ってきました。
これでは勝負になるはずはありません。

ただ、だからといって私は村上さんがいまの若手たちと比べて劣った選手とは思いません。
これは”時代の差”です。
女子のジャンプというのはジュニアの頃に構成が定まり、シニアに上がった後に種類が増えるということはほとんどありませんけど、村上さんがジュニアだった時代のフィギュア界の潮流は、ジャンプの難度を上げたり種類を増やすのではなく、手持ちのジャンプを安定的に綺麗に跳ぶことでした。

なぜそうなったかというと、村上さんのジュニア最終年である2009-10シーズンまでは、ジャンプの回転不足(1/4回転以上1/2回転未満)はすべて”ダウングレード判定”というルールだったんです。
たとえば、基礎点5.0(当時)の3Loを少しでも回転が足りないと判定されれば、2Loにグレードが下がり、わずか1.50の基礎点となるばかりか、そこからGOE(出来栄え)もマイナスされてしまったわけです。
トリプルトリプルなどはハイリスクの代表格といえるでしょう。
現在は回転不足でも基礎点の70%はもらえるので、選手が受けるプレッシャーはまったく異なるものだったと思います。
このルールは2004-5シーズンからのものですから、村上さんなどは直撃世代といっても過言ではありません。
ノービスやジュニアをこの時代で過ごしていたら、ジャンプの種類を増やすよりも、跳べるジャンプを磨くという方向性になるはずです。
しかも、この時代はFSで3回の2Aが許されていたばかりか(いまは2回)、GOEの係数もトリプルジャンプと同じ値だったんです。
ISU(国際スケート連盟)が「複数のトリプルジャンプを跳ぶな」といっていたようなものです。

ですから、村上さんに近い世代というのは世界的に見ても修得ジャンプの種類が少ない選手が多いですし(トリプルトリプルなどは稀)、シニアに上がってからの体型変化によってジュニアの頃に跳べていたジャンプの回転不足に苦しむ選手も多くいました。
そして、そのせいか、あまり活躍した選手もいませんし、悲しいことに活動期間もとても短い…。
村上さんは同世代のなかでは最も活躍した選手だと思います。

そして10-11のルール改正によって3回転以上のジャンプがが跳びやすくなると、女子のレベルは一気に上がってゆきました。
私は毎年全中フィギュアを観にいっていますけど、国内でもそれは加速度的といっていい進歩です。
それまでのシングルスケーティングは進歩の止まった停滞期、まさに冬の時代といえるでしょう。
ですから、その時代に育った選手を”いまの視点”で評価することを私は好みません。
ジャンプの種類が少なくったっていい選手がたくさんいましたし、そのなかでも村上さんはFSの4分間を最後まで強度の高い演技で滑り続けられる類稀な選手でした。
そういう選手をいまの若い選手に比べて実力が劣ると簡単にいいたくありませんし、そういう意見に私は真っ向から反論したいと思っています。

また、村上さんといえば、バンクーバー五輪の翌シーズンに”ジュニア女王”としてシニアデビューしたことから、”次世代エース””ポスト浅田真央”としてメディアに取り上げられると同時に、日本スケート連盟からも熱心に応援された選手でもありました。
あの頃、スケ連やメディアが”次のスター”を作ろうとしていたのもまた”時代”です。
しかし、村上さんは実力がそこまで高い選手ではありませんでしたから(世界のトップを狙えるわけではなく)、世間の期待や注目というのが徐々に重荷になっていったのは想像に難くありませんし、ソチ五輪後は日本女子を引っ張る立場になったことでメンタル的にも「苦しく」なっていったのでしょう。
ファンに愛された選手も、時代には愛されなかったということかもしれません。

我々は村上さんから学んだことが2つあります。
ひとつはルールがどうあれ常に技術を追求しなければならないこと。
もうひとつはジュニア選手に過度な期待と注目をしないこと。
村上さんも今後は育成の方に進むそうですけど、きっと自分の色んな経験を生かしてくれるのではないでしょうか。

まずは『THE ICE』での最高の笑顔と元気な滑りを待っています!
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