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2017年、安曇野能(前)

信州の夏の風物詩であり、お盆の後の土曜に開催されることから、夏の終わりを感じさせるイベントでもある安曇野”薪能”ですが、龍門淵公園の楽屋になっている建物が工事中ということで、昨年に引き続き豊科公民館大ホールでの開催です。
新しいホールですし、雨の心配がいらず、空調も快適なので、ここはここでなかなか魅力的。照明にも蝋燭の光を加えているので雰囲気もよかったです。

午後1時からは恒例となっている地元の子供たちのお仕舞が披露され、それが終わると市長の挨拶に続いて第27回・安曇野能(2017年8月19日)の始まりです。
まずはすっかり定着した青木真由人くん(主催・青木道喜先生のご子息)の舞囃子『敦盛』。
中学1年になり、身体も謡もまた一歩大人のそれに近づいてきた真由人くんからはもはや子方の雰囲気は感じられません。謡も型もしっかりしていて、厳しい稽古の様子が伝わってくるようでした。”やらされている”といった様子は微塵もなく、敦盛の凛々しさと哀れさに会場も釘付けになっていました。
ただ、教えてもらっていることがかなり高いレベルで出来ているだけでに、”教えてもらわない部分”が気になるのも確かです。
我々が知る能役者というのは、舞台に上がれば、何をしていても全てがその曲の拍子(リズム、雰囲気、流れ)に合っているものです。演者ではない後見(介添え役)ですらそうなんです。
自分で考え、感じ、繰り返し稽古して一人前になるわけですね。
真由人くんは中1ですけど、私はもうそういうところを期待しています。
これからの数年は、子方として舞台に立てず、かといって大人に混じって地謡に入ることもありませんから、本当に難しい時期だと思います。人前で芸を披露する機会が少なくなるなかで、いかにモチベーションを保ち、自分を磨くことができるか。
信州のファンは真由人くんを全力で応援していますよ!

書き忘れていましたけど、今年は”能に見る平家物語”と題して、平家物語に因んだ番組構成になっています。
続く青木道喜先生の能は『頼政』。以仁王に従って挙兵し、平等院での激しい戦闘の結果、平家に鎮圧された悲運の老将・源頼政ですね。
前場はシテとワキが宇治の景色を謡い、頼政の合戦に話が及ぶわけですけど、シテがつける面(尉)が素晴らしく、妙なリアリティがあって、それが青木先生の品のある立ち姿と合わさると、ちょっとゾクっとしました(クーラーが効きすぎたわけではなく)。
後場は一転してシテが頭巾を被った老将の姿となり、宇治合戦の様子が激しい謡と所作で表現され、その生々しさに観客は圧倒されます。
後場の面(専用面・頼政)も素晴らしい出来栄えで、本物の源頼政が蘇ったようでちょっと怖いくらいでした。
舞がなく、すべてを修羅ノリの謡で押し切ってゆくこの『頼政』の後場は修羅者の神髄ですね。私も大好きです。
そして、その迫力になくてはならないのがシテの技量。
気迫が充溢した青木先生の仕方話は、数万騎の武者たちが暴れ回る様子を観客の頭のなかに鮮明に映し出させたことでしょう。
”品”と”力強さ”の両方を持つ青木先生の『頼政』、最高でしたね。

狂言は超人・野村萬先生による『寝音曲』。
遊び人の太郎冠者は謡が得意なのですが、主人にそれが知られるとあれこれ謡わされそうで厄介だと思って内緒にしていたのに、それがばれてしまいます。
そこで太郎冠者は「酒を飲んでなければダメ」「女の膝枕の上でなければダメ」といって嘘をつき、主人に諦めさせようとしますが、しつこい主人は酒もやり、自ら膝枕までして謡わせようとするので、太郎冠者も渋々承知することに。
謡うのは『海女』の玉ノ段。
ここで太郎冠者に扮する萬先生の謡の朗々たること。87歳とは到底思われません。
しかし、そこで「膝枕でなければダメ」を疑う主人は、太郎冠者の頭の上げ下げを繰り返します。
太郎冠者もそれに対応し、上げれば音痴、下げれば朗々と巧みに使い分けるのですが、何度も繰り返されるうちにそれがごっちゃになって、いつの間にか上げているのに朗々状態に。
主人がそれを呆れながら眺めるなか、太郎冠者は謡の興が乗ってきて、ついには舞まで始めてしまいます。
謡いながら舞うというのはかなり難しいですし、それが動きの激しい玉ノ段となればなおさら。
それなのに萬先生は息を切らすことなく、「玉は知らずあまびとは、海上に浮かみ出でたり」まで駆け抜けるのですから、度肝を抜かれました。
この『寝音曲』は太郎冠者が謡も舞も上手でなければ、曲の面白さはまったく伝わらないわけですが、萬先生がやるとその面白さは何倍にもなるわけです。
私はこの野村萬先生は87歳という年齢を抜きにして、ひとりの狂言師として現役ナンバー1だと思います。
すでに人間国宝に指定されている先生ですが、宝のなかの宝ですね。
日本人ならば一度は舞台を観て欲しい!
(後編に続きます。)
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