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2019年の安曇野能は”色”が印象的

今年2019年の安曇野能の演目は、『半蔀』と『鞍馬天狗』白頭。
私と相方が信州に引っ越してきた09年も『鞍馬天狗』だったので、もう十年も経ったか、という思いがします。
ちょっとアホになったくらいで、2人ともあんまり変わっていませんからね。
しかし、その間に、安曇野にやってこられる片山一門には大きな変化がありました。
10年に慶次郎先生が亡くなり、15年には幽雪先生(九代九郎衛門)もうつし世を去られ、能楽の歴史のなかに入られたのです。失ったものは本当に大きいとしかいいようがありません。
ただ、伝統は受け継がれてゆくもので、青木真由人くんのような有望な才能が芽を吹き始めましたし、安曇野能はこれからも信州の夏の風物詩として存在感を発揮してゆくことでしょう。
青木道喜先生や十代九郎衛門先生(片山清司)も円熟味を増していることですしね!

そうしていつも通り地元の子供たちの発表会が大きな拍手とともに終わり、いよいよ観能の時間です。
16年から薪能ではなく、屋内ホール(豊科公民館)になってしまったので火入れがないのはちょっと寂しいですけど、最近の日本は灼熱化していますから、エアコンが利いている方がいいかもしれませんね。
能をじっくり観るにもホールの方が集中できます。

『半蔀』は源氏物語の夕顔をシテに、日陰の女でありながら”常夏の女”という異名を持つ女性の、慎ましやかな美しさを、半蔀の隙間から眺めるような演目。
稽古するのも観るのも人気の曲で、私も大好き。
まずは宝生欣哉先生のワキとしての存在感の発出の妙を堪能し、「さすが」と内心唸ったところに五色幕が上がり、シテが姿を現します。
シテの九郎衛門先生の立ち姿と足の運びを見たとき、幽雪先生のそれが頭に浮かびました。
最初の謡「手に取ればたぶさに穢る立てながら」もよく似ていましたし、ぞぞっとしたくらいです。
その後は九郎衛門先生風に戻りましたけど、周囲の期待もあって、幽雪先生に”寄せている”のかもしれませんね。
私は”片山清司”のファンですから、個性の方を大事にして欲しいですけど。

そんなふうに思っていたら、後場はいきなり清司カラーが出ました!
見たこともないような鮮やかなグリーンの装束は、和色でいえば浅緑といったところなのかもしれませんが、印象としては”メロン色”です。
普通、『半蔀』の後シテの長絹は”白”を選びます。夕顔の花の色ですね。
ところが、九郎衛門先生は実の方の”緑”を選んだわけです。
これがなんとも新鮮で瑞々しく、涼を運んでくれるようでしたし、九郎衛門先生の個性とも相まって、これまでにない『半蔀』の世界でした。
『半蔀』の後場は序舞もあって、けっこう時間が長いんですけど、見惚れていたら、あっという間でした。
今回の『半蔀』は長く語り継がれること間違いなしですね。
(九郎衛門先生の体重が気になります。健康のためにも膝のためにも、ぜひダイエットを。)

狂言は超人・野村萬先生の『咲華』。
この狂言、個人的にはあんまり面白いとも思わないんですけど、いつの間に大笑いしていました。
萬先生ならではの間合いといいますかなんといいますか、もう魔法ですね。
来年で90歳になられるというのに、謡は明瞭だし、動きも軽いし、もはや超人すら超えてきたような気がします。
(萬先生が『咲華』を選んだのは、『鞍馬天狗』の「牛若袂に縋り給へば」をもじった茶目っ気だと思うんですけど、どうでしょう。)

『鞍馬天狗』といえば、十年前のそれは稚児たち(片山一門のお子さんたち)が入場するとお客さんから拍手が起こったのが印象的だったので、
今年は稚児に地元安曇野の子供たちを使うということですし、学芸会のようになるかと思いましたけど、ホールのせいか、みなさんお行儀が良かったです。
写真をバシャバシャ撮ったっていいと思いますけどね。
子供たちは緊張したのか、位置取りがアバウトになってしまって、それをワキの欣哉先生が整理。
微笑ましい光景でした。
しかし、その和んだ雰囲気を破壊したのは、いかつい山伏に扮した青木道喜先生。
身にまとった墨衣も、夜の鞍馬山の真っ暗さを思わせます。

そこに登場するは、浮世という名の暗闇に囚われた牛若丸。
今回はワキ方・小林努先生のご子息・巧くんがそれに扮します。
思い切りが良く、声の可愛い子方でした。

鞍馬山での牛若丸は、敵である平家の稚児たちに囲まれ、いわゆるボッチ。
怪しげな山伏がそれを誘って一緒に花見をするなんて、現代なら逮捕されそうですけど、2人は桜の名所話などとしつつ、仲良く鑑賞。
謡も装束も、陰の山伏・陽の牛若というわかりやすいコントラスト。

後場は山伏が大天狗の正体を見せ、牛若に兵法伝授。
長刀片手の凛々しい牛若を導く白頭の大天狗は、妖怪というより山の神のような迫力でした。
小柄なはずの青木先生が巨人のように見えるのですから、芸の力は不思議です(かつての幽雪先生もそうでした)。
武田邦弘先生を地頭とする地謡も凄まじくパワフルでしたし、お仕舞の部分からは一気呵成に畳みかけ、これなら平家も滅亡じゃ!
暑気払いではありませんが、スカッとしました!
やっぱり信州の夏の締めくくりは安曇野能ですね!

こうして大満足の3時間半が終わったわけですが、最後に一言だけ。
今年から長野市での前売り券販売がなくなっちゃったんです。
困っているのは私と相方だけではないはずです。
安曇野薪能実行委員会のみなさん、ぜひご再考を!
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